よくわかる化学せんい

KASEN TOPICS

高性能・高機能化学繊維素材やその用途展開などについてご紹介します。

Vol.9 日本の技術力が支えるスーパー繊維

1965年、米国・デュポンが新繊維を開発しました。パラ系アラミド繊維「Kevlar®」です。「非常に強くて、伸びにくい」特徴を持つ「Kevlar®」の登場こそが、世界のスーパー繊維の始まりです。それから約半世紀。世界のスーパー繊維は日本の合繊メーカーがリードするまでになりました。韓国・中国などもスーパー繊維に参入していますが、生産量、豊富な種類など日本の合繊メーカーが一歩も二歩も進んでいます。それは日本の合繊メーカーの技術開発力の表れと言えるでしょう。

第1世代 「ケブラー」誕生が始まり

世界で初めて開発されたスーパー繊維であるデュポンのパラ系アラミド繊維「Kevlar®」は、同じ重さで比較すれば鋼鉄の約5倍の強度があります。しかも伸びにくく、熱や摩擦にも強い、切創性や衝撃性にも優れ、電気を通さないなど様々の特徴を持っていました。この特徴が評価され、1971年の発売以来、幅広い産業資材用途に使われることになります。

image

「Kevlar®」原糸(東レ提供)
Kevlar® は米国デュポン社の登録商標です。

光ファイバーの伸びを抑えるテンションメンバー、ロープ、タイヤなどのゴム資材、防弾チョッキや消防服や作業用手袋など防護衣料、耐熱フェルト、プリント配線基板、ブレーキパッドのような摩擦材やガスケットなどです。最大の用途は摩擦材やガスケットです。これはパルプ状(繊維をすり潰したもの)にして使われます。
なお、デュポンはパラ系アラミド繊維の開発よりも早く、耐熱性に優れたメタ系アラミド繊維も開発、販売しており、このメタ系アラミド繊維は、強度はナイロンと同等ですが、耐熱性が400℃と高く、難燃性に優れています。

話は「Kevlar®」に戻ります。1977年、「Kevlar®」と同じパラ系アラミド繊維がドイツ・アクゾによって開発されます。それが「トワロン®」です。「トワロン®」の開発によって、世界のスーパー繊維市場は2強時代がしばらく続くことになります。この「Kevlar®」「トワロン®」がスーパー繊維の第1世代と言えるでしょう。

image

「Kevlar®」安全手袋(東レ提供)
Kevlar® は米国デュポン社の登録商標です。

image

「トワロン®」を使用した光ファイバーケーブル(帝人提供)

第2世代 日本企業が相次ぎ参入

「トワロン®」開発から10年、日本企業がスーパー繊維に参入します。帝人が「Kevlar®」や「トワロン®」とは異なる製法によるパラ系アラミド繊維「テクノーラ®」を独自開発し、1987年から販売を始めたのがその始まりです。日本企業が独自技術により初めてスーパー繊維を開発したという点において「テクノーラ®」の開発はエポックメイキングになりました。

image

「テクノーラ®」原糸(帝人提供)

その翌年、1988年に東洋紡が超高分子量ポリエチレン繊維「イザナス®」を開発し、1989年から生産を始めます。さらに、1990年にはクラレがポリアリレート繊維「ベクトラン®」を開発・販売します。第1世代とは異なるスーパー繊維は第2世代に当たります。
因みに1991年には東レとデュポンとの合弁会社である東レ・デュポンが、日本で「Kevlar®」の生産を始めています。

image

「イザナス®」原糸・製品(東洋紡提供)

image

「ベクトラン®」ロープ(クラレ提供)

帝人の「テクノーラ®」は1970年代に開発が始まり、1987年から商業生産を始めました。少し専門的になりますが、「Kevlar®」「トワロン®」は単独重合ポリマーが原料ですが、「テクノーラ®」は共重合ポリマーを使用します。また、「Kevlar®」「トワロン®」とは異なる製造工程(高温で延伸)もあります。原料、製法の違いから「Kevlar®」「トワロン®」に比べると、強度は優れますが、弾性率は若干劣ります。また、耐湿熱性や耐薬品性、耐摩耗性などに優れています。こうした特徴から「テクノーラ®」はゴム資材が主力用途となっています。なお、帝人は1972年に耐熱性が特徴のメタ系アラミド繊維「コーネックス®」の生産も始めています。

image

「コーネックス®」を使用した消防服(帝人提供)

東洋紡の超高分子量ポリエチレン繊維「イザナス®」はオランダ・DSMが基礎技術を開発し、1984年に繊維化に際して東洋紡と技術提携し、共同開発をスタートしました。東洋紡が本格生産を開始したのは1989年です。「イザナス®」は高強度・高弾性率に加えて、ポリエチレンを原料とすることから比重が0.97と小さく、軽いという特徴があります。水の比重が1のため、これを下回ると、水に浮きます。このため、「イザナス®」は水に浮くスーパー繊維とも呼ばれます。吸水性がないため、水による膨潤や劣化がありません。逆に融点は150℃(パラ系アラミド繊維は480~570℃)と低いため、耐熱性が求められる用途には使えません。
タンカーなどのホーサー(係留策)などロープや釣り糸、作業用手袋、防護衣料などが主力用途です。「イザナス®」はDSMも生産販売していますが、東洋紡とは販売地域を住み分けています。

「イザナス®」と同時期に誕生したのが、クラレのポリアリレート繊維「ベクトラン®」です。1990年から生産を始めました。「ベクトラン®」の基本技術も米国の旧ヘキストセラニーズが開発したものです。クラレはその基本技術をベースに繊維化技術を確立し、世界で初めて事業化しました。「ベクトラン®」はポリエステル系の液晶繊維で、世界では同社のみが生産販売しています。因みに原料は異なりますが、アラミド繊維も液晶繊維の一つです。「ベクトラン®」も高強度、高弾性率に加え①水分を吸収しない②寸法安定性に優れる③極低温下化での物性が優れるなどの特徴があり、漁網など水産資材やネット、ロープなどに使われています。NASAの火星探査機着陸用エアバッグにも採用されました。

image

「イザナス®」船舶係留ロープの使用例(東洋紡提供)

第3世代 PBO繊維が登場

1990年、スーパー繊維の第3世代が登場します。東洋紡のPBO(ポリパラフェニレン・ベンゾビス・オキサゾール)繊維「ザイロン®」です。「ザイロン®」はパラ系アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維など既存のスーパー繊維の強度、弾性率を凌ぎ、耐熱性、難燃性にも突出した性能があります。「ザイロン®」は80年代に元々、米空軍が研究開発し、米ダウケミカルが重合法を開発。90年度代にダウケミカルと東洋紡が繊維の量産化を共同開発しました。現在は、東洋紡のみが事業化しています。

「ザイロン®」はパラ系アラミド繊維に比べて約2倍の強度と弾性率、100℃高い分解温度、さらに有機繊維の中では68という限界酸素指数(LOI値、難燃性の指標で高いほど燃え難い)を有しています。この特徴を生かして消防服、耐熱フェルト、伝導ベルトなどに使われます。

成長期 需要拡大で増設ラッシュ

第1世代~第3世代が揃ったスーパー繊維は2000年以降、急成長を遂げます。世界的な環境・安全・省エネ・省資源の動きから、様々な用途で需要が拡大したからです。その成長性を見込んで帝人が動きました。帝人は2001年、オランダ・アコーディス(ドイツ・アクゾから分離)からパラ系アラミド繊維「トワロン®」事業を買収します。これにより、帝人はデュポンと並ぶパラ系アラミド繊維メーカーへと一躍、変ぼうを遂げました。

帝人は「トワロン®」買収後、「トワロン®」と「テクノーラ®」を積極的に増強します。さらに、東洋紡「イザナス®」、クラレ「ベクトラン®」も相次いで増設を行います。クラレは2005年、米国のセラニーズ・コーポレーションの関連会社であるセラニーズ・アドバンスド・マテリアルズを買収し、欧米市場でも自社販売体制を構築しました。 また、この時期、デュポン「Kevlar®」やDSM「イザナス®」も増設が続いたことから、スーパー繊維の成長期と言い換えることができるでしょう。

第4世代 新たな超高分子量ポリエチレン開発

そんなスーパー繊維も2008年秋のリーマン・ショックによって停滞を余儀なくされますが、2010年以降には回復基調に入ります。他の汎用繊維が落ち込む中で、スーパー繊維のポテンシャルの高さを証明しました。

その中で、第4世代のスーパー繊維が登場します。その一つが2008年に発表された東洋紡の超高分子量ポリエチレン繊維「ツヌーガ®」です。「ツヌーガ®」は「イザナス®」と同じ特性を持ちますが、製造方法が異なります。溶剤ゲル紡糸法という特殊な製法を用いる「イザナス®」に対して、「ツヌーガ®」はポリエステルやナイロンと同じ溶融紡糸法を用います。「イザナス®」には出来ない原料から着色する原着も可能です。主に作業用手袋などに使われています。

そして、2011年、帝人も超高分子量ポリエチレンの市場に参入します。「トワロン®」を生産販売するオランダのテイジン・アラミドに新設備を導入し、「ENDUMAX®」のブランドで販売を始めました。同社の超高分子量ポリエチレンは繊維状ではなく、フィルム状です。製造工程で溶剤を用いないという点も製造法が「イザナス®」とは異なりますが、用途は「イザナス®」などと同じで、防護衣料や耐切創手袋、ロープ、ネットなどです。

image

「ENDUMAX®」(帝人提供)

また、2012年にはクラレが耐熱性に優れたPEI(ポリエーテルイミド)繊維を開発しました。メタアラミド繊維並の難燃性を有しながら、染色が可能で、ソフトな風合い、発煙がほとんど無い等の特長から、防護衣のみならず、航空機や高速鉄道の資材として期待されています。また、熱溶融性があるため、PEEKやPPSと同様に、将来の炭素繊維補強熱可塑性コンポジット材料としても可能性があります。
第4世代に突入したスーパー繊維ですが、いずれも日本の合繊メーカーが開発しています。日本の繊維技術力の表れとも言えるでしょう。中国や韓国でもパラ系アラミド繊維や超高分子量ポリエチレン繊維が開発されていますが、日本の合繊メーカーには及びません。スーパー繊維は事業規模、技術開発力とも日本がリードしている数少ない繊維の一つです。




(2012年11月掲載) 本文および写真・図(イラスト)の無断転載を禁じます。

ページのトップへ