繊維製品向けに消臭機能を付与する場合、とくに衣料では汗臭に対する効果が求められます。汗臭はアンモニア、酢酸、イソ吉草酸という成分が原因です。汗そのものに臭いはほとんどありません。黄色ブドウ球菌など、人間の皮膚に生息している菌が汗や皮脂を摂取し、排泄した分解物が悪臭の原因です。汗をかくということは、菌のエサが皮膚に増えることになるため、細菌が一気に増殖して「汗臭さ」になります。また、こうした細菌の腐敗した死骸も悪臭のもとです。
アンモニア、酢酸、イソ吉草酸に加え、いわゆる「加齢臭」の原因物質である「ノネナール」（脂臭く、青臭いにおいがします）が4大悪臭と言われており、とくに衣料向け消臭素材は、この4臭気への対応が求められます。
4大悪臭の発生を防止
部屋干し臭対策も加速
4大悪臭対策に加え、近年、室内で洗濯物を干した際に発生する”部屋干し臭”への注目が集まっています。天候や夜間の洗濯、日中外出するからなどを理由に、洗濯物を室内で干すケースがライフスタイルの変化にともなって増加しており、その不快な部屋干し臭を抑えることが求められています。部屋干し臭発生のメカニズムは最近になって解明されました。そのにおい成分は皮脂汚れやタンパク質汚れの分解物である低級脂肪酸4メチル3ヘキセン酸（4M3H）です。モラクセラ菌という細菌が、皮脂・タンパク質汚れを分解して4M3Hを発生させることが分かりました。モラクセラ菌には黄色ブドウ球菌や大腸菌に比べて紫外線耐性や乾燥耐性が高い性質があります。部屋干しの場合、屋外干しと比べて乾燥に時間がかかり、日光（紫外線）による殺菌効果もないため、モラクセラ菌が洗濯物にわずかに残った皮脂やタンパク質汚れを分解して部屋干し臭のにおい成分である4M3Hを発生させるのです。
洗剤による除菌では、自然界に存在するモラクセラ菌が洗濯物に付着して増殖するのを防ぐことに限界があるため、繊維の力が求められており、部屋干し臭対策素材の開発・実証が進んでいます。
伝線防止に役立つ合着タイプ
～旭化成「アクアミュー®DC」「トップサーモ®DC」「ロイカ®CF」～
旭化成のキュプラ繊維「ベンベルグ®」には原綿を改質し、消臭機能を付与した「ベンベルグ®DC」があります。ベンベルグ®ならではの吸放湿性に加え、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸などに対する消臭効果を発揮します。ベンベルグ®は構造上、薬剤が入り込みやすく、綿を改質するのと同等以上の性能が期待できるのです。ベンベルグ®DCをポリエステルと混綿した「アクア・ミュー®」、吸湿発熱性も兼ね備える「トップサーモ®DC」などを展開しています。また、スパンデックス繊維「ロイカ®」でも消臭機能を持つ機能糸として「ロイカ®CＦ」があります。繊維表面にイオン化状態を作り、悪臭物質を吸着する仕組みです。繊維自身に消臭性能を付与しているため、洗濯や着用回数による機能劣化がないのです。
ダブルの消臭機能を発揮
～セーレン「イノドールクイック®」～
セーレンが展開するのは「イノドールクイック®」です。ナノレベルのセラミックスがにおい成分を吸着し、金属イオンが分解することで消臭します。消臭成分セラミックスの微粒子化と露出化で消臭効率を向上するとともに、金属イオンによる化学的な消臭も行う二重の消臭パワーが特徴です。消臭アンダーウエアシリーズ「デオエスト®」として展開しており、アンダーシャツやボクサーブリーフに使用されています。
消臭メカニズム（セーレン提供）
デオエスト®（セーレン提供）
～帝人グループ「フレッシュコール®Z」「エコピュアー®」～
帝人グループの主力消臭素材は「フレッシュコール®Z」と「エコピュアー®」です。「フレッシュコール®Z」は、ポリエステル短繊維 中わた用機能素材です。アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールといった4大悪臭に対して高い消臭機能を発揮します。また、機能剤による後加工では無く原綿に機能剤を練り込んでいるため、機能耐久性にも優れます。寝装用途を中心に展開しています。
「エコピュアー®」は、ポリマー改質によって繊維そのものを健康な素肌と同じ弱酸性に保つ「pHコントロール」機能を有するポリエステル素材です。素材の弱酸性特性により、アンモニアなどのアルカリ成分を吸着し中和することで消臭性能を発揮します。また、機能剤による後加工では無くポリマー自体を改質しているため、洗濯や着用を繰り返しても半永久的に機能性を持続します。スポーツウェア用途を中心に、一般衣料や生活資材、医療資材などに向けた提案を強化しています。
「エコピュアー®」の機能特性
弱酸性化によるpHコントロール性着用評価結果
運動前に肌洗浄を実施し、2時間運動後（バスケット）の皮膚pHを測定。
被験者：研究室大学生7名 大妻女子大学水谷研究室にて評価実施
エコピュア―®の着用評価結果
（帝人提供）
消臭性（アンモニア） → 弱酸性特性によりアンモニアを吸着し中和する
エコピュア―®の消臭性
（帝人提供）
インテリア、介護、ユニフォームまで幅広く
～東レ「シガノン®」など～
東レは「シガノン®」「コスメル®」「ルミマジック®」シリーズ、「セベリス®」など多彩な消臭素材を保有します。シガノン®は4大悪臭のほか、タバコ臭のアセトアルデヒド、酢酸、ピリジンなどに対して効果があり、カーテン、ユニフォームに使われています。コスメルはナイロン繊維を高分子段階で改質し、消臭・抗菌・防臭機能を持たせます。洗濯や日光照射により消臭機能が持続し、ユニフォームや靴下、布団などに使われています。ルミマジック®はシリーズ展開しており、C、Hタイプは光触媒を特殊バインダーで繊維に付着させたもの。スポーツ、ユニフォーム、肌着、インテリアに幅広く使われます。CＦ（ケアフレッシュ）タイプは糞尿臭を消臭する介護消臭機能素材で、介護衣料や介護シーツなどのヘルスケア分野で使われています。
汗臭の原因となる黄色ブドウ球菌の増殖を抑え、発生する悪臭を抑制するのがセベリス®です。ドライクリーニングや家庭での洗濯後も効果が持続し、他の加工と組み合わせても効果を発揮します。ユニフォームなどに採用されています。
また、宇宙船内服の開発で培ったナノスケール加工技術を用いた素材もあります。繊維一本一本を改質し、アンモニア臭を素早く消臭します。耐久性に優れ、工業洗濯にも対応します。スポーツ用途では「ムッシュオン®」、ユニフォーム用途では「ナノアージュ®」の素材名で展開しています。
PET織物の繊維内部改質による耐久消臭性能発現イメージ
（１）汗や尿などによって発生するアンモニア臭をすばやく抑制（アンモニア消臭率80% 当社法による）
（２）家庭洗濯はもちろん、工業洗濯50回後でも消臭性能を維持
ムッシュオン®の消臭メカニズム
（東レ提供）
ムッシュオン®を使用したビジネスシャツ
（東レ提供）
アクリル素材で消臭
～日本エクスラン工業「ディスメル®」「エチケット®」～
東洋紡グループ会社の日本エクスラン工業は「ディスメル®」「エチケット®」を展開しています。
アクリレートの消臭メカニズム
アクリレート系繊維『エチケット®』の消臭メカニズム
（東洋紡提供）
ディスメル®は、においのもとになるアンモニアを吸着、消臭します。吸着能力はヤシガラ活性炭の4倍以上で、吸着速度も5倍になります。原綿自体に消臭効果があり、繊維の官能基に化学吸着するので、安全性と耐久性に優れます。
エチケット®は臭気成分に触れると、化学的中和反応を起こして効果的に消臭します。繊維構造の反応基に吸着するため、溶出や脱落がなく、耐久性と安全性に優れています。
4大臭気に効果
～三菱ケミカル「キュートリー®」
三菱ケミカルのキュートリー®は三菱ケミカル独自の特殊ブレンド技術により製造される指定外繊維です。汗臭・加齢臭の原因臭である酢酸、イソ吉草酸、ノネナール、アンモニアの4臭気に効果を発揮します。天然由来のキトサンによる抗菌防臭機能も持ち、後加工とは異なり、原綿製造段階で機能を付与しています。このため、着用や洗濯による性能低下が少なく、機能を維持します。インナーをはじめとした衣料用途に加え、寝装分野さらに医療・介護用途への展開も強化しています。
キュートリー®断面
（三菱ケミカル提供）
ナノスケールの繊維改質
～ユニチカトレーディング「ナノフェーズ―®DE」「パルパー®DD」「デオ・シャット®」～
ユニチカトレーディングの「ナノフェーズ―®DE」は耐久性に優れたポリエステルの消臭・吸水・制電・防汚加工です。低温プラズマ加工技術によってナノスケールで繊維を改質しています。また、芯鞘構造糸でも「パルパー®DD」を展開しています。芯部にポリエステル短繊維、鞘部に原綿改質による消臭コットンを配したもので、新しい特殊複重層紡績糸です。鞘部の消臭コットンで汗を吸収すると同時に不快な臭いを処理し、吸収した汗は芯部のポリエステル短繊維で素早く拡散して効率的に乾燥させます。優しい肌触りも特徴です。このほか、体臭成分「ノネネール（加齢臭）」に対する消臭加工として「デオ・シャット®」も販売しています。汗臭成分「アンモニア、酢酸、イソ吉草」に対しての消臭性も兼ね備えます。
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