日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

日本化学繊維協会の
サステナビリティ対応方針について

I. 化繊産業の使命

  1. 世界の人口は新興国を中心に今後も増加し、衣料品を始めとする必需品の原料となる繊維の需要も拡大する。天然繊維には有限の耕作地における食糧生産との競合の問題があり生産量の拡大は困難で、化学繊維を主体として今後の需要増に対応していく必要がある。

  2. 化学繊維は、設計次第で強さや軽さなど多様な面で際立った性能を用途に応じて発現できることから、衣料用途で快適性、意匠性、耐久性等を実現するとともに、医療、建築、自動車、航空・宇宙等様々な非衣料・産業分野でも欠くことのできない素材として、人々の暮らしを豊かなものにすることに貢献している。

  3. 近年、気候変動や水不足、資源の枯渇、広範な国々における高齢化などの地球規模の課題の深刻化を背景に世界の持続可能性への懸念や関心が高まっている。化学繊維は航空機等の軽量化、水・空気の浄化、スマートテキスタイル等、様々な用途を通じて持続可能な社会の実現に向けて貢献しており、今後も高機能、高性能繊維の開発を通じてその寄与を高めていく。

  4. CO2を排出する化石資源への依存、海洋汚染、製造工程からの環境汚染物質の流出といった、化学繊維または化繊産業が持続可能性に与える負の影響は、非常に重要な課題である。我々化繊産業は、科学的根拠に基づく実効のある対策によりこれらの課題の解決を目指す。

  5. 新型コロナウイルス感染拡大を契機とするライフスタイルの変化の中で、消費者は無駄のない生活を志向するようになり、サステナビリティに関する意識が高まっている。感染拡大防止や治療に資する化学繊維製品の果たす役割が再認識されるとともに、エッセンシャルユースの増加などニーズが高まり、安定供給を求められている。こうした状況を踏まえて、化繊産業はポストコロナ時代において、世界の感染症対策に大きく貢献していく。

II. 持続可能な社会の実現に向けた化繊産業の取組と課題

我々化繊産業は、世界の繊維需要の将来の拡大に対する供給責任を果たすと同時に、持続可能な社会実現のために、パリ協定や日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言の目標や国連SDGsの達成に向けて、化繊産業を資源循環型モデルへ移行すること、および気候変動対策への取組みが急務となっている。

  1. 資源循環の実現

    脱炭素および資源有効利用の観点から、短期的には既に実用化されているPETリサイクルの促進により貢献を図る一方で、長期的には化学繊維の原料をライフサイクルでCO2を排出しない再生可能原料へ移行させる方向で取組を進めている。

    (1)回収PETボトルのリサイクル

    • 石化原料に代えて回収PETボトルを原料として化繊生産を進めているが、今後更に拡大することで、再生原料の利用促進の観点から資源循環に貢献していく。

    • 【課題】化繊企業においては不純物の除去など再生PET原料を使いこなす技術開発、用途開発が求められるほか、回収PETボトルの安定確保、回収システムの構築、国や自治体等との連携等が求められる。

    (2)繊維製品のリサイクル

    • 既に一部の化繊企業は、衣料品等において事業化を始めている。今後、技術的課題や回収に関わる諸問題をクリアすることで実用領域を拡大し、化繊製品のクローズドループ型のリサイクル体制を構築することで資源循環に貢献していく。

    • 【課題】製品を一旦ポリマーあるいはモノマーまで戻してリサイクルする手法においては、繊維製品の易リサイクル設計が求められ、適用できる製品が限定される。先ずは、単一素材に近い使用済み繊維製品での実現が課題となる。また、製品を油化、ガス化するなどの新しいケミカルリサイクル技術は、適用に当たってはCO2排出を含む様々な環境側面から、その有効性について多面的な解析を行うべきである。

    (3)植物由来原料の活用

    • 既に一部の化繊企業は、全面的あるいは部分的に植物由来原料を使用した化学繊維の商業生産を始めており、拡大しつつある。植物由来原料を活用した化学繊維は、限りのある化石資源に依存せず、廃棄時に焼却してもライフサイクルでのCO2排出がない点で優れており、循環経済の促進や気候変動対策に貢献していることから、さらなる拡大が望まれる。

    • 【課題】生産量の拡大や適用繊維の本格的な拡大に当たっては、食糧生産との競合や森林等の環境破壊を回避するよう、食用作物の未利用部分を活用する等の手立てが必要である。石化原料由来の化学繊維との品質面、コスト面での比較、および植物由来化繊の用途拡大への取り組みが必要である。

    (4)上記 (1)~(3) の共通課題

    • 消費者にこれら資源循環に貢献するリサイクル原料または植物由来原料を用いた製品の価値を認識してもらうことがこれら製品の普及に繋がるため、消費者の意識付けに加えて、ユーザー産業や消費者がこれら製品の環境性能を判別し、正しく選択できるような表示制度や認証制度等の構築が求められる。

    • 特に (2)、(3) については、実用化に向けて更なる技術開発、実証が必要であり、国の支援が望まれる。

  2. 環境負荷の低減

    (1)CO2排出量削減

    • パリ協定や日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言の下で気候変動の抑制に向けて、CO2排出量削減の高い目標を掲げて取組みを進めている。化繊産業は「守り」と「攻め」の両面から気候変動問題に対応していく。

    • 【課題】化繊製造における省エネや環境保全技術・設備の導入を積極的に図るほか、移動体等の軽量化、蓄熱素材、クーリング素材等の快適機能素材の開発、水・空気の浄化等、温暖化問題をはじめとする気候変動問題への対応を環境貢献製品・技術を通して、一層進めていく必要がある。

    (2)海洋プラスチック問題への対応

    • 2019年に合意された大阪ブルーオーシャンビジョンでは海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロとする目標が掲げられている。化繊産業は、リサイクル推進などにより資源の有効利用を進めるとともに、繊維製品から発生する繊維屑に起因する海洋中のマイクロプラスチック問題について真摯に対応を進めていく。

    • 【課題】繊維屑に起因するマイクロプラスチック問題について、適切かつ有効な対策を行うために、海洋中の存在量・分布、発生源、流出経路、生態系や環境への影響などについての科学的な知見を得ること、必要な測定方法の標準化の策定に喫緊の課題として取り組んでいる。これらを踏まえ、繊維製品での対応はもとより関連業界(洗濯機、洗剤、川中~アパレル産業)との協力により海洋プラスチック問題対策を進めることが必要である。生分解性繊維の使用によりこの問題に対応する場合は、様々な条件の海洋、土壌で完全に分解されることを慎重に見極める必要がある。

    (3)化学物質管理

    • 欧州を中心にグローバルに化学物質管理規制が進んでおり、化繊産業でも、原材料や加工剤、染料等の使用が制限されつつある。化学物質の最新の安全性情報・科学的知見を情報収集しながら、リスクが懸念される物質は代替物質に切り替えるなど環境低負荷の化繊産業、繊維産業チェーン全体での環境汚染の削減に向けて今後も取組む。

    • 【課題】世界各国地域で進む環境規制やリスク評価等の動きを注視しながら、適切に環境低負荷生産、環境配慮型原料使用素材への切り替えを進めることが必要である。

    (4)繊維サプライチェーン全体として取り組むべき課題

    化繊産業が主体となって取り組む上記(1)~(3)の課題に加え、繊維サプライチェーン全体として改善が必要な以下の課題についても、解決に向けて関係業界に協力していくことが必要である。

    • アパレル等繊維製品の過剰生産・廃棄

    • 繊維の染色、加工段階での水の大量消費

  3. 持続可能な社会の実現に貢献する化学繊維製品の拡大

    (1)ポストコロナ時代の化繊産業の貢献

    • 新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、マスク、医療用ガウン、防護服、衛生ワイパー等の医療、衛生用途の個人用防護具(Personal Protective Equipment:PPE)の重要性が増している。化学繊維は、上記のPPEの安定供給を通じて、世界の感染症対策に大きく貢献している。

    • 【課題】緊急時のPPEの安定供給体制の構築やさらなる高性能化、高機能化を図っていく必要がある。

    (2)標準化活動の促進

    • アジアの新興国を中心に消費生活の高度化が進み、また、上述の循環経済の促進、気候変動への対応を進めていく中、これまで以上に安心、安全、信頼性の確保の観点から、化学繊維の付加価値を可視化する必要性が高まっている。

    • 【課題】高度化する化繊市場の状況を適切に把握し、高機能、高性能繊維の標準化活動を引き続き推進することが必要である。