日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

ちょっと変わった繊維
不織布

不織布は繊維の成長分野 ~第3の布への重要性高まる~

国内の繊維生産は縮小均衡が続いていますが、なかには増加している製品もあります。その一つが織ったり、編んだりせずに布状にする不織布です。織物、編み物に続く第3の布である不織布はリーマンショック後の2009年は前年実績を下回りましたが、その後は回復基調を辿り、15年は過去最高であった08年の生産量を更新しました。16年は微減となりましたが、17年1~9月は0.1%増となっています。
経済産業省の生産動態統計月報によると、2017年1~9月の不織布生産量は前年同期比0・1%増の25万3878トンとなりました。この水準で推移すると年間33万8000㌧強と過去最高となった08年(33万8000トン強)に並ぶ可能性があります。

これに対して、日本の化学繊維生産量は減産が続いています。日本化学繊維協会のまとめによると、17年1~9月の生産量は1.1%減の69万340㌧。この水準で推移すれば年間では92万トン強となるとなる見通しです。
こうした統計数値からも繊維のなかで不織布が成長分野であることが分かると思います。
しかも、化学繊維生産のなかにはスパンボンド不織布などが含まれており、ポリエステル短繊維やポリプロピレン短繊維はその多くを短繊維不織布の原料として使用されています。そう考えると、化学繊維における不織布の重要性は年々高まっています。

不織布は製法によって様々 ~原料の違いで同じ製法でも異なる~

では、不織布とは何でしょうか。JIS‒L0222のなかで「繊維シート、ウェブまたはパットで繊維が一方向またはランダムに配向しており、交絡、融着、接着によって繊維間が結合されたもの。ただし、紙、織物、編み物、タフト及び縮絨フェルトを除く」と定義されていますが、簡単に言うと繊維を何らかの方法で絡ませたり、接着したりして作った繊維状のシートです。
つまり、繊維状シートにするために、不織布には様々な製法があるということです。この製法の違いによって物性が異なり、また、使用する原料によっても特徴があります。
不織布の製法は短繊維不織布と長繊維不織布の2つに大別できます。短繊維不織布は化合繊短繊維を原料に、紡績で使用するカード機などでシート状にした後、様々な手法で不織布にします。接着剤を使用するものがケミカルボンド不織布(CB)、熱融着繊維などを使ったものがサーマルボンド不織布(TB)、特殊針で繊維を交絡させるものがニードルパンチ不織布(NP)、高圧水流で繊維を絡ませるのがスパンレース不織布(SL)です。
一方、長繊維不織布は化合繊を製造するように、溶けた原料樹脂を紡糸した後、自己接着させて生産するスパンボンド不織布(SB)を主体に、原料を高圧で押し出し熱風で吹き飛ばすことで極細不織布にするメルトブロー不織布(MB)などがあります。

スパンボンド不織布(SB)

SBに使われる素材としてはポリプロピレンが最も量が多くなっています。主力用途は紙おむつです。当初は尿漏れギャザーと呼ばれる部分でしたが、昨今はバックシート(紙おむつの外側部分)、トップシート(肌に直接当たる部分)などにも広がっています。その面でポリプロピレンSBは紙おむつにおいて必要不可欠な素材になっています。これはポリプロピレンSBの技術革新が進み、バックシートやトップシートに使用できる品種が開発されているからです。
紙おむつは日本国内では少子化により乳幼児用の伸びは見込みにくいですが、大人用紙おむつは高齢化に伴い需要が拡大しています。また、紙おむつは1人当たりのGDPが3,000ドルを超えると需要が急増すると言われますが、この数年、中国・東南アジアは経済成長に伴い、現地での需要が増加しています。

スパンレース不織布(SL)

一方、SLは織・編み物に最も近いと言われています。短繊維を原料に高圧水流で繊維を絡ませるため、柔軟でドレープ性に優れるという特徴があります。この特徴を生かして、主にベビーウエット(赤ちゃんのお尻拭き)に代表されるワイパーに使用されています。昨今では化粧雑貨の一つであるフェースマスク向けも拡大しています。SLは化合繊短繊維(綿100%使いもあります)を原料に、他の短繊維不織布と同じように、カード機に通すことでウェッブと呼ぶシートを作ります。この後、シートがバラバラにならないように、シートへ高圧の水を噴射し、繊維を絡め合わせて不織布化します。また、この高圧水の技術を活用して他の不織布に穴を空けることに利用したり、異なるポリマーからなる複合繊維を分割して、極細繊維による不織布を製造する場合にも使用します。原料となる化合繊短繊維はレーヨン短繊維、ポリエステル短繊維が主に使われています。とくに、日本のレーヨン短繊維メーカーにとってはSLが最大用途となっています。

今、スパンレース不織布メーカーが最も熱い視線を送るのが、国内外で需要が急増しているフェースマスク用途です。フェースマスク用はベビーウエットや家庭用ワイパーに続く大型用途として期待されています。日本だけでなく、韓国、中国などアジアでも拡大しているからです。業界推定によると、フェースマスクの市場規模は国内で1000数百トンと言われますが、美容大国である韓国では日本の半分の人口にもかかわらず、日本と同程度の規模があるとされ、中国に至っては日韓の10倍とも言われています。それだけに、スパンレース不織布メーカーは日本で高品質なトップブランドに採用されている点などを訴求しながら、韓国、中国市場の開拓に取り組んでいます。

ニードルパンチ不織布(NP)

自動車にもさまざまな不織布が使われています。その一つがNPです。例えば原着再生ポリエステル短繊維(ポリエステル短繊維に顔料を製造段階で入れることで、色をつけたもの)を原料にするニードルパンチ不織布はカーマットや天井材など自動車内装材に使われています。

合繊メーカーの重点事業に成長 ~東レ 衛生材料向けにグローバル展開~

先ほど化合繊において、不織布の重要性が高まっていると指摘しましたが、合繊メーカー各社が不織布を重点事業と位置づけています。東レはポリプロピレンSB、ポリエステルSB、さらにポリプロピレンMBなどの不織布を国内外で生産するとともに、ポリエステル短繊維では短繊維不織布を主力用途にしています。また、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維やフッ素繊維などもバグフィルター用不織布の原材料として使われています。
2015年にはドイツ・フロイデンベルグ エスイーと共同で日本最大の不織布メーカーである日本バイリーンの株式公開買い付け(TOB)を行いましたが、これは東レが不織布をいかに重要視しているかを表しています。
東レの主力であるポリプロピレンSBは韓国、中国、インドネシアで生産しています。総生産能力は15万3000トンですが、18年4月に韓国で1万8000トンを増強、2019年度には中国で2万トンの設備を新設し、24%増の19万1000㌧に拡大する予定です。急ピッチで事業を拡大する背景にはポリプロピレンSBの主力用途である紙おむつの需要拡大があります。ポリプロピレンSBは紙おむつが主力用途ですが、紙おむつは様々な材料で製造されます。その6割は不織布を中心とする繊維です。その面で紙おむつは不織布おむつと言い換えることもできます。
その紙おむつにはポリプロピレンSBだけでなく、エアスルータイプのTB(エアスルー不織布)も使用されています。このエアスルー不織布の原料となるのがオレフィン系、エステル系の熱融着繊維です。東レは14年に買収した韓国企業を主力に日本、インドネシア子会社でも紙おむつ向けを中心に生産販売しています。つまり、衛材材料向け不織布事業はわた売りも含めてグローバルで拡大しています。

旭化成 独自性に強み ~SBに続いてベンリーゼ®も増設~

紙おむつ用ポリプロピレンSBでは旭化成も積極的な拡大投資を続けています。日本とタイで総能力は6万6000トンですが、国内外での紙おむつ需要増に対応するため、タイでの3号機増設を検討しています。同社は細繊度「エルタス®ファイン」、親水性「エルタス®アクア」という差別化SBでの拡大を進めており、同業他社とは異なる独自戦略を強いています。
同社のSBはポリプロピレンSBだけではありません。ポリエステルSBやナイロンSBも生産しています。3種類を生産しているのは同社のみです。両SBも同業他社と違いがあります。とくに低目付(薄地)を得意としていますが、ポリエステルSBの一つである熱成型SB「スマッシュ®」やポリエステルMBの複合不織布「プレシゼ®」など独自性が非常に強い。生活資材や産業資材などが主力で、「スマッシュ®」は薬剤容器やコーヒーフィルターに使われています。「プレシゼ®」は膜支持体や各種フィルター、エレクトロニクスなど先端材料向けです。また、ナイロンSBに至っては日本企業としては唯一生産しており、使い捨てカイロなどに使われています。
また、SB以外にも様々な不織布を製造販売しています。その一つが世界で唯一のキュプラ長繊維不織布「ベンリーゼ®」です。中国・韓国を中心にフェースマスク用の需要が急増するなかで、今年増設を発表しましたが、17年3月には総能力を37・5%増の5500トンにまで拡大しました。その他、ベンリーゼ®は工業用ワイパーや医療用ガーゼ、感染対策用のウエットワイパーなどにも使われています。

ユニチカ 日系最大のポリエステルSB ~タイ子会社で増設、複合SBに強み~

ポリエステルSBでは日系最大手のユニチカもタイ子会社のタイ・ユニチカ・スパンボンド(タスコ)で年産6000トンの新設備を導入し、国内合わせた総能力を25%増の3万トンへ拡大しました。同社のポリエステルSBは芯ポリエステル・鞘ポリエチレンからなる複合SB「エルベス®」を持つ点が特徴です。最近では十字断面SB「ディラ®」なども新開発しています。

  • 「エルベス®」断面
    (ユニチカ提供)
  • 「ディラ®」断面
    (ユニチカ提供)

同社はカーペットやカーマット一次基布や土木建築資材、衛材、生活資材など幅広い用途に展開しています。また、綿100%「コットエース™」を主力とするSLも生産販売しています。国内に年産4500トンの能力があるほか、丸三産業との合弁会社であるUMCT(ユニチカ・マルサン・コットン・テクノロジー)に5000㌧設備があります。おしぼりなどの生活資材や衛生材料、フェースマスクなどに展開しています。

  • 「コットエース™」
    (ユニチカ提供)

東洋紡 不織布の総合メーカー ~グループの総合力を活かして~

ポリエステル長繊維不織布(SB)で日系2位の規模(年産1万2000トン)を持つ東洋紡は、自動車資材、建材、土木資材、生活資材などでトップシェアーを獲得しています。「エクーレ®」は自動車内装材や包装資材、防草シート等に幅広く使用され、「ボランス®」は土木・建築を中心に展開しています。また、素材難燃の「ハイム®」も展開しています。
 同社はSBだけでなく、子会社の呉羽テック(滋賀県栗東市)、ユウホウ(大阪市北区)で短繊維不織布を製造販売しています。その面では長繊維不織布、短繊維不織布を擁する不織布の総合メーカーでもあります。衛生材料向けの熱融着繊維、高強度や耐熱性に優れるスーパ繊維、機能性アクリレート繊維などの不織布用短繊維も生産しています。
 呉羽テックの主力用途は自動車のエアフィルターや医療用不織布です。しかも、日本だけでなく、タイ、米国、台湾の世界四極での生産体制を構築しています。さらに、化学品専門商社であるオー・ジー株式会社のインド合弁会社にはバグフィルター用不織布の技術指導も行っており、将来的には資本参加も視野に、インドでの自動車資材の展開を検討しています。また、ユウホウは高目付不織布や高機能水流交絡繊維不織布、ステッチボンド不織布、導電性マットなど高付加価値不織布を多品種小ロット生産できるのが特徴です。

クラレ 製品事業が半分占める ~世界唯一の水蒸気不織布を持つ~

クラレの不織布事業は1970年代初頭にジョンソンエンドジョンソンとの合弁事業としてスタートしました。現在はSL・CB・MBスチームジェット等の多様な製法と、クラレグループが製造するユニークな樹脂や原料を組み合わせて高機能な不織布を製造しています。更に、同社は原反の製造販売に加え、自社素材を利用した製品事業も柱としている点も特徴です。
SLは原反販売が中心ですが、CBは業務用ワイパー「クラフレックス®」カウンタークロス(衛生ふきん)が主力です。外食チェーン店やスーパーのバックヤードなどに使われており、同社が60~70%のシェアを持つと言われています。吸水性が高く、汚れも落ちやすいうえ、乾燥が早いため雑菌が繁殖しにくいというメリットが高い評価を受けています。
MBは国内最大幅の設備を持ち、更にクラレグループの特殊な樹脂を不織布化することで、食品フィルター、救急絆創膏などの用途に展開しています。特に、高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン®」と同じ液晶ポリマーを使用した「ベクルス®」を絶縁材用途などへ展開しており、産業資材分野にも力を入れています。
また、同社は世界で唯一の水蒸気を用いた「スチームジェット®」方式による「フレクスター®」を製造しています。クラレグループのサイド・バイ・サイドのポリエステル短繊維を使用すると伸縮性があり、自着性や手切れ性もある不織布を作ることが出来ます。主に伸縮包帯として国内外で採用が進んでいます。また、クラレグループで製造する特殊ポリエステル短繊維「ソフィスタ®」を使用すると、ボード状の繊維の成形体を製造することができ、主に住宅内装材向けに展開が進んでいます。

帝人 ナノファイバーでフィルター ~垂直不織布や「ユニセル®」など特殊品も~

帝人はポリエステル短繊維を主力に短繊維不織布用途への原料販売を行ってきましたが、この数年、不織布や不織布製品などの展開に力を入れています。高機能クッション材「エルク®」を使ったベッドマットや電車シート、高吸水・吸湿繊維「ベルオアシス®」による寝具や工業資材などへの展開などが中心でしたが、最近ではポリエステルナノファイバーの特徴を生かした気体、液体フィルター製品の開発にも力を入れています。

  • 「エルク®」断面
    (帝人提供)
  • 「ベルオアシス®」の吸水実験
    (帝人提供)

また、垂直不織布「V‒Lap®」は自社生産する不織布ですが、繊維がタテ方向に並ぶ特徴を生かして自動車の吸音材向けの開拓が進んでいます。

  • 「V‒Lap®」(上)とクロスレイタイプ(下)の不織布断面比較(帝人提供)

さらに、同社にはグループのユニセル(山口県岩国市)が独自製法による長繊維不織布を製造販売しています。
規模は年産1500トンに過ぎませんが、バーストファイバーやトウ開繊などの帝人独自の特殊製法を組み合わせてできた中間品を積層し、横方向に広げる世界唯一の不織布は①優れたヒートシール性②鮮やかな印刷性③良好な成型追随性④高い吸油・保温性―など様々な特徴があります。この特徴を生かして、自動車の防音材や建材の表皮材、包装資材などに使われています。さらにタイでの事業化を決定し、2016年夏から生産開始しています。

三菱ケミカル アクリルでも不織布 ~ナノファイバーや扁平も新規投入~

三菱ケミカルはアクリル短繊維で不織布用途に力を入れています。アクリルナノファイバー「ナノアクリル®」や、かさ高性が高く、剛性が強くなる不織布を作れる扁平アクリル短繊維「ファンクル®」(UFO断面)などを展開しています。とくにナノアクリルはアクリルとジアセテートなどを複合化し、SLの水流絡合工程などで繊維を分割、300ナノメートルの細さにするものです。これまでは機能紙用のショートカットファイバーだけでしたが、SLなど短繊維不織布用のロングファイバーでも技術確立しています。

このように合繊各社は様々な不織布事業を展開しています。そして、その事業規模は年々拡大しており、合繊メーカー各社にとって不織布は非常に重要な位置を占めています。

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