日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

ちょっと変わった繊維
人工皮革

現在、日本では旭化成、クラレ、帝人コードレ、東レなどが人工皮革を製造・販売しています。人工皮革には本革のように艶のある銀面タイプと起毛したスエードタイプがあり、代表的な商品ではクラレの「クラリーノ®」と帝人コードレの「コードレ®」は銀面タイプ、旭化成の「ラムース®」、クラレの「アマレッタ®」と東レの「ウルトラスエード®」はスエードタイプを主力にしています。
皮革のような素材には人工皮革のほかに合成皮革がありますが、両者は製造方法に違いがあります。合成皮革はニットや織物等の基布に樹脂を塗って作るのに対し、人工皮革はマイクロファイバー等で作った不織布にウレタン等を含浸させて作ります。人工皮革は表面だけでなく、内部構造から天然皮革に近づけて作られます。

マイクロファイバーによる緻密な構造

人工皮革のポイントの一つはマイクロファイバーの製造技術です。天然皮革はコラーゲン繊維の束が緻密に絡み合った構造になっていますが、人工皮革は0.1デシテックス級の超極細繊維を立体的に絡み合わせていき、天然皮革に似た構造を作り出します。
日本で人工皮革を初めて事業化したクラレは、1964年から「クラリーノ®」の販売を開始しました。また、東レも1970年代から「エクセーヌ®」を展開しており、両社は海島型と呼ばれる異種ポリマーの組合せでマイクロファイバーを生産しています。この方法は、まず複数の成分で構成する糸を作った後、一つの成分を残して他を溶解し非常に細い繊維とします。溶解する前の糸の断面を見ると、溶解せずに極細繊維として残す部分が、海に浮かぶ島のように点在していることから海島型と言われます。この製法によって非常に細いマイクロファイバーを安定的に生産できるようになり、まず人工皮革から展開が始まりました。
また、溶融紡糸で溶融ポリマーを押し出す口金を極小化してマイクロファイバーを生産する手法もあり、旭化成はこの製法で1979年に人工皮革を事業化しました。この手法は当初、非常に細い糸を安定的に生産しにくいという課題がありましたが、旭化成の「ラムース®」は抄造法と呼ばれる人工皮革の生産方法で商品化しました。この抄造法は、カットしたマイクロファイバーを紙を抄くようにスクリムという特殊織物に積層させて、高圧水流で繊維を絡めあわせるという形が採られます。

  • 極細繊維「エクセーヌ®」と毛髪の比較
    (東レ提供)

靴やランドセルに展開~銀面タイプ~

人工皮革は天然皮革に比べ、軽量性、耐久性、イージーケア性(手入れが簡単)、染色がしやすいなどのメリットがあり、銀面タイプ、スエードタイプのそれぞれが特徴を生かした用途に展開しています。また、近年は動物愛護の観点から人工皮革へのシフトが進んでいる分野がみられるほか、新しい用途の開拓なども進んでいます。
銀面タイプの大きな用途としては、ランドセルや靴などがあります。このうちランドセルは小学生が最大6年間使うアイテムですので、人工皮革の軽くて丈夫で手入れも簡単という特徴が活きる分野と言えます。近年はランドセルの大容量化やカラーバリエーションの多様化なども進んでいるため、より人工皮革の特徴が生きる形になっています。この分野にはクラレ「クラリーノ®」のほか、帝人コードレなども展開しています。

また、靴も銀面タイプの大きな用途の一つです。靴も耐久性が要求される分野ですが、さらに足に馴染む質感なども重要になります。そして近年は一般靴だけでなく、より激しい動きへの対応が求められるスポーツ用シューズでの採用も増えています。例えばランニング用やサッカー用などで、これは人工皮革の性能向上に加え、スポーツシューズの進化も背景にあります。スポーツシューズでは更なる軽量化や足にフィットする設計など競技者の更なるパフォーマンス向上を図る開発が進められており、それとともに人工皮革の活用箇所が増えています。
近年、スポーツ用シューズのカラーバリエーションやデザインが多様化しているのも、人工皮革のシェアが高まっていることの表れと言えそうです。

このスポーツ分野ではクラレの「クラリーノ®」と帝人コードレの「コードレ®」。またクラレは新生産プロセスによる環境対応型人工皮革「ティレニーナ®」でも力を入れています。また、両社はスポーツシューズだけでなく、サッカー、バスケットやバレーなどのボール分野にも多く展開しています。

  • 「コードレ®」
    (帝人提供)
  • 「クラリーノ®」
    (クラレ提供)

衣料・家具・自動車が主力用途 ~スエードタイプ~

スエードタイプの主な用途は、衣料品、インテリア、自動車用シートなどです。このうちジャケットやコートなどの衣料品分野では軽量性や手入れが簡単などのほか、染色のしやすさなどデザイン面でも人工皮革の特徴を生かすことができます。さらに近年は、ストレッチ性など天然皮革にはない機能性を付与した人工皮革も開発され、活躍の場を広げています。この分野では東レの「ウルトラスエード®」やクラレの「アマレッタ®」などが活躍しています。また、ソファなど家具・インテリアも人工スエードのメリットが生かせる分野であり、旭化成、クラレ、東レがこの分野を主力用途の一つにしています。
そしてもう一つの主力用途が自動車用シートです。自動車は世界各地で販売台数を伸ばしていますので、人工皮革もグローバルにブランド価値を訴求することが必要です。例えば東レは日本だけでなくイタリア子会社のアルカンターラ社でも人工皮革を生産しており、自動車分野ではイタリア製を「アルカンターラ®」、日本製を「ウルトラスエード®」として世界に発信しています。また、旭化成はイタリアの染色コンバーターと連携して欧州向けに商品を供給しており、「ディナミカ®」ブランドとして展開しています。
これらの用途に加え、人工皮革の新しい用途開拓も進んでいます。その一つは産業資材分野で、機械内部に埃を入れないようCD挿入口についているCDカーテンなどがあります。ここでは人工皮革という形にこだわらず、人工皮革の製造方法の特徴を生かしながら新しい用途を切り拓こうとする動きがみられます。

  • 「ウルトラスエード®」
    (東レ提供)

一方、人工皮革ではありませんが、2005年にセーレンが開発した合成皮革「クオーレ®」シリーズは天然皮革を超えた素材として打ち出しています。セーレンはカーシート地製造の大手でもあり、織・編み物だけでなく、合成皮革、人工皮革も手掛けるカーシート地の総合メーカーでもあります。「クオーレ®」には快適機能性を付与したシリーズ展開や、同社独自のインクジェット技術によるデジタル生産システム「ビスコテックス®」での多色、意匠表現などに加え、工程中の溶剤を従来に比べて2分の1以下に削減でき、重量も本革や塩ビ素材に比べて半分と自動車の燃費向上にも貢献します。

  • 「クオーレ®」
    (セーレン提供)

環境配慮型の生産方法に

近年、環境への意識が高まる中、人工皮革もより環境にやさしい生産方法に移行する流れが出ています。一つはVOC(揮発性有機化合物)規制や有機溶剤排出規制に対応し、有機溶剤を使用しない水系ウレタン樹脂へ切り替える動きが挙げられます。また、使用するポリエステルを再生ポリエステルに切り替えるなどの動きもあります。
例えばクラレの人工皮革「ティレニーナ®」は、マイクロファイバーを作る際には海島型の海部分に水溶性樹脂を使い、含浸する樹脂も水系ポリウレタンに替えて製造プロセス中に有機溶剤を使用しない形にしています。また、旭化成の「ラムース®」は水系へのシフトとともにスクリムを含めて再生ポリエステルを使用する形にしており、帝人コードレは再生ポリエステルの使用に加え使用後のリサイクルしやすい設計などにも着眼して商品を展開しています。東レも再生ポリエステルの使用、水系へのシフトのほか、企業として環境保全に取り組む姿勢を打ち出すなど各社が環境にやさしい人工皮革の開発に力を入れています。
さらに生産プロセス革新により、環境負荷を下げる動きもあります。例えばクラレの「ティレニーナ®」は製造プロセスを従来に比べて最短5分の1に短縮することに成功し、製造工程における温室効果ガスの排出量を大きく削減しています。

  • 「ティレニーナ®」
    (クラレ提供)

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