皆さんが着ている服には、ポリエステルやナイロン、アクリルなどの化学繊維が使われているのですが、これらの化学繊維は比較的電気を通しにくい性質を持っています。別の言い方をすると、電気がたまりやすいのが化学繊維です。冬場に服を脱いだ時にパチパチと静電気が起こったり、金属に触れるとパッチっとしたりするのはそのせいです。
その一方で電気を通しやすい繊維もあり、それらは導電性繊維(素材)と呼ばれています。化学工場をはじめとする火が付きやすいような場所、医薬品工場や精密電子工場をはじめとするほこりの付着が許されないような場所では、作業服などに高い制電性が求められます。簡単に言うと、電気によってパチパチ(火花)が起きないようにしたり、ごみが付着したりしないようにすることが本当に重要なのです。
導電性繊維とは、化学繊維などに静電気の発生を防ぐ性質を持たせた繊維・素材のことを言います。化学繊維の中に導電性の良い金属やカーボンブラックを入れたり、繊維の表面を金属で被覆したり、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維が用いられています。
化学繊維メーカーはそれぞれの技術力を駆使して繊維・素材を開発してきました。機能的にもすごく高性能なものが登場しています。用途も工場だけでなく、さまざまなところに広がりが出てきました。皆さんも気づいていないだけで、実はいろいろなところで目にしているかもしれません。「こんなところにも使われているのだ」と知ることができるかもしれませんので、一度意識して探してみてください。
今回は活躍する化学繊維では導電繊維・素材を紹介します。
クラレグループのクラレトレーディングは、カーボンなどを含有している導電繊維「クラカーボ®」を販売しています。特殊断面構造の導電繊維(ポリエステルおよびナイロン)で、導電性カーボンあるいは白色系金属酸化物を練り込んで複合紡糸しています。ポリマーと断面構成を用途特性に応じてさまざまな組み合わせで製品化しているのが特徴で、高性能、高耐久性に優れた導電性繊維として、工業製品から一般衣料品まで、高まる除電ニーズに対応し販売展開を進行しています。主な用途は、帯静電気防止ユニフォーム、クリーンルームウエア関連、毛布、カーペット、電子機器製品などです。
セーレンが販売している「メタフレックス®」(ポリエステルなど)は、柔軟性、伸縮性、耐屈曲性に優れた導電性ファブリックです。金属箔やフィルムにはない柔軟性を持っているほか、屈曲を繰り返しても抵抗値変化が少ないのが特徴です。設計に合わせた自由なパターン形成も可能です。用途は配線、回路、センサー電極、ヒーター、電磁波シールド、アクチュエーターなどの例が挙げられます。セーレンの子会社であるKBセーレンが展開している「ベルトロン®」は高性能導電性フィラメント(ポリエステル)です。どのような環境下でも帯電防止効果を発揮し、少量混合で十分な効果が得られます。衣料分野やインテリア分野、生活資材分野など、多くの用途に対応できるように、バリエーションを多く取りそろえています。
帝人の炭素繊維「テナックス®」は、自動車や航空機、エレクトロニクスなどの分野で、金属に替わる材料として幅広く使用されています。また、炭素繊維に特殊コーティングを施して、多様なエンジニアリングプラスチックと組み合わせることで、さらに導電性を高めたシリーズも展開しています。
- 「テナックス®」(帝人提供)
東洋紡のフィルム状導電素材「COCOMI(ココミ)®」は、導電シートと絶縁シートの積層により構成されています。薄くてフレキシブル(柔軟)、伸縮する、高い導電性などが特徴で、あらかじめ濡らす必要のない“ドライ電極”として使えるのも強みです。衣料品に装着することで「心拍」「筋電」「呼吸」などの計測に使用でき、スマート衣料を実現します。このため、パーツとしての展開だけでなく、スマート衣料としての展開を進めます。その上で、東洋紡の「快適サイエンス」を活用した快適衣料設計との組み合わせで、着心地の良さと計測精度の高さを両立した製品を提案します。人が着る衣料品だけでなく、競走馬調教システム用の心拍計測用電極としても採用されていると言います。これからはペットや畜産市場への展開も図っていくとしています。
東レが販売している「ルアナ®」は、導電性カーボンを繊維内部に筋状に配置した高機能繊維で、ポリエステルとナイロンで展開しています。コロナ放電を利用して静電気を積極的に除去し、低湿度条件下でも十分な効果を半永久的に発揮します。この素材を混用することでテキスタイル自体の帯電量の低下に画期的な効果を発揮し、防塵衣やカーペットなどに使用されています。また、着用時のパチパチという不快音、衣類へのまとわりつき、ほこりの付着を防ぐ効果もあるので、一般衣料への展開も進んでいます。
同社が保有している断面形成技術を適用することで、導電性カーボンや繊維表面に露出させ、導電性能を高めたグレードや繊維全面に導電性カーボンを行きわたらせることで、さらに高い導電性を発揮することが可能な素材もラインアップしており、これからも高機能化を推し進めるとしています。
三菱ケミカルホールディングスグループの三菱ケミカルが販売している「コアブリッド®」は、芯鞘複合紡糸によって繊維の芯部分に導電性粒子を練り込んだ繊維です。短繊維のため紡績糸や不織布を中心に、主に帯電防止目的に展開されています。練り込みのため、洗濯や摩耗によって性能が低下しにくいのも特徴です。
「コアブリッド®」断面(三菱ケミカル提供)
ユニチカグループのユニチカトレーディングは「メガーナ®」シリーズを販売しています。導電性に優れているので、電気をためないで流す性質を持っています。導電性を向上するためには電子が移動しやすいように、導電性カーボンなどを分散させるなど、さまざまな工夫が施されています。「メガーナ®E」はポリエステルと白色導電セラミックを組み合わせており、表面漏えい抵抗値は108Ω/cmです。ポリエステルとカーボンを組み合わせた「メガーナ®E7」と「メガーナ®E5」もラインアップしています。「メガーナ®E7」の表面漏えい抵抗値は107Ω/cmで、「メガーナ®E5」の表面漏えい抵抗値は105Ω/cmです。この三つの素材はいずれも優れた耐久性と低発塵性を持っています。
(2020年9月掲載) 本文および写真・図(イラスト)の無断転載を禁じます。