日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

環境にやさしい繊維
エコファー

獣毛の代わりに使って持続可能性に貢献

アクリル繊維はセーターやカットソー、肌着、靴下などの用途に加え、エコファーにも多く使われています。エコファーでは主に扁平型を中心とする異型断面型のアクリル短繊維が使われており、とくに本物の獣毛のような外観・風合いを持つ高級品の領域では日本が高い技術力を持っています。現在はカネカ、日本エクスラン工業、三菱ケミカルなどが展開しています。

ハイパイル・ボアが主力

エコファーは生地の種類で言いますと、ハイパイル・ボアが主力です。タオルのように基布にパイル(輪)が付いている生地で、シャーリング加工によってパイル上部を刈り取って毛の部分を作り出します。そして毛足を長くする加工や染色・抜染(一旦染色した色を部分的に抜く)工程を経て、本物の毛皮のような外観・風合いに仕上げます。ハイパイルとボアの違いは生産手法にあり、ボアは糸で、ハイパイルは糸にする前の段階であるスライバー(撚りをかける前の繊維を並行にそろえた状態)でパイルを作ります。
歴史を振り返ると、1990年代までハイパイル・ボアの主力用途はぬいぐるみなどの玩具でした。しかし、2000年代以降はアクリル繊維の主原料であるアクリロニトリルの高騰などもあって、この分野はポリエステル繊維にシフトしていきました。その一方でアクリル繊維は素材特性がより生きる分野に注力していき、現在はぬいぐるみなどにはポリエステル繊維、エコファーにはアクリル繊維が多く使われる形になっています。近年はエコファーでもポリエステル繊維が使われるケースも増えていますが、とくに毛足の長いタイプではアクリル繊維に強みがあります。

異型断面で自然な毛足に

エコファーには主に扁平型を中心とする異型断面のアクリル短繊維が使われます。この断面形状の工夫に加え、様々な太さや長さを組み合わせながら、ラビット調、ミンク調、フォックス調、ラクーン調など様々な表情を作り出します。繊維断面を通常の円形ではなく異型にするのは、商品に仕上げた際に毛足が寝ず自然に開くようにするためです。また、本物の毛皮には長い毛だけでなくうぶ毛のような細くて短い毛も混在しているように、エコファーにもガードヘアとダウンヘアがあってそれぞれで違う特徴を持たせています。

合繊ならではの特徴

エコファーは合成繊維製ですので、本物の毛皮にはない特長を持たせることができます。例えばアクリル繊維は発色性に優れ、天然のファーにはない柄表現も可能となります。デザイン性を高めるのにも有効で、最近では部分使いを含めてエコファーを採用するブランドが増えています。また、本物の毛皮に比べて手入れが簡単で、耐久性が高いなどの特徴も挙げられます。

エコファーの市場が拡大

エコファー向けの扁平型アクリル繊維の市場規模は年間約8万トンとみられ、このうち約5万5000トンを日本が生産しています。その多くは中国を中心とするアジアに輸出され、そこで最終製品にして欧米や日本、中国などの市場で消費されています。最終製品にした際に本物のような外観・風合いを出すためにはアクリル短繊維が果たす役割も大きいため、とくに技術力が要求される高級品の領域では日本企業が高いシェアを持っています。
この市場規模は今後さらに拡大していくと予想されています。背景の一つは動物愛護への関心が高まっていることで、欧州や北米などでは法規制が進んでいることもあり、毛皮からエコファーへシフトする動きがみられます。また、デザイン性の観点からエコファーを部分使いする動きが増える中、最近では衿や袖口、シューズやレッグウォーマーなどエコファーが使われる箇所が広がっています。これらを背景に市場は拡大傾向にあり、高級ブランド、カジュアルブランド、スポーツブランドともエコファーの採用を増やす傾向にあります。また、経済成長とともに中国などの市場が拡大していることなども需要拡大につながっています。

三菱ケミカル「ファンクル®」

三菱ケミカルは扁平型アクリル短繊維「ファンクル®」を中心にエコファー用を展開しています。とくに異型断面の種類が多いことが同社の特徴で、扁平型だけでなく、アレイ型、長方形の上に半円をつけたUFO型、Y字型などをそろえています。各形状とも2~30Dまで様々な太さをそろえており、エコファーのタイプに応じて組み合わせながら本物に近い表情・質感を実現しています。同社のアクリル短繊維「ボンネル®」は独自の生産プロセスで生産されており、断面形状をつけやすいという特徴があります。このためはっきりした断面形状を実現することが可能で、それが異型断面の豊富な品そろえにつながっています。
また、開発においては、より本物に近づけるための新しい異型断面繊維に加え、機能性を付与して快適性を高める方向にも取り組んでいます。最近では高野口産地(和歌山県)の企業との取り組みで、エコファーの毛となる部分に太陽光を熱エネルギーに変換する発熱・保温アクリル「コアブリッド® サーモキャッチ®」を使った商品を開発しました。アクリル繊維内に充填した特殊物質の分子が太陽光を浴びることで振動して熱エネルギーに変わる仕組みで、ファーマフラーとしてすでに市場に出ています。

「ファンクル®」「コアブリッド® サーモキャッチ®」を使用している製品

カネカ「カネカロン®」

カネカはアクリル系合成繊維(モダクリル繊維)「カネカロン®」をエコファー向けにも展開しています。大きな特徴は難燃性能で、安全性の面から衣料品だけでなくインテリアや玩具などにも多く使われています。また、モダクリル繊維が持つしなやかでソフトな素材特性によって、より本物の獣毛に近い風合いを実現することができます。
「カネカロン®」の主な用途は、ウィッグなどの頭髪装飾品、難燃防護服、エコファーやぬいぐるみなどのハイパイル・ボアです。このうちエコファー用途では、扁平タイプを中心に、原着タイプ、収縮タイプ、細繊度品など数十種類をそろえ、様々なタイプのファーに対応できるようにしています。
また、同社はエコファーの課題の一つであった毛抜け(パイル糸の脱落)の問題を解消するため、「ラストラス」加工を開発しています。パイル編み物の毛抜け防止は裏面から樹脂を塗って固める手法が主流ですが、「ラストラスファー」はさらに一工夫加えることで、ソフトな風合いを維持しながら毛抜け量を大幅に減らすことに成功しました。これは従来の加工設備ではなかなか対応しきれなかったのですが、同社が原綿開発にとどまらず、設備設計まで踏み込んで開発に成功しました。

  • カネカ提供

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