日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

強い繊維/強くて弾性がある
炭素繊維

炭素繊維は軽くて硬く、強い高機能繊維

「軽くて硬く、強い」「高熱や薬品にも耐える」。そんな高性能の繊維があります。“炭素繊維”です。炭素繊維は40年ほど前に日本で開発されたものです。炭素繊維は合成繊維の一つであるアクリル長繊維を原料にするものが多く、このアクリル長繊維を高温で焼くことで、高性能の炭素繊維になります。こうしたアクリル長繊維を原料とする炭素繊維はPAN(Polyacrylonitrile)系炭素繊維と呼び、炭素繊維の大半を占めています。

  • 炭素繊維 プレカーサー(三菱ケミカル提供)

日本では1970年代の初頭から炭素繊維の生産が始まりました。現在、炭素繊維(PAN系)を製造している日本企業は東レ、帝人グループ、三菱ケミカルの3社です。1980年代後半から日本企業の技術改良が進み、現在、日本が品質、生産量とも世界一の実績を持っています。炭素繊維はプラスチックなど他の材料と混ぜて使います。他の材料を強くしたり、機能性を与えたりすることができるからです。帝人は、グループ会社で、炭素繊維事業を展開している東邦テナックスを2018年4月1日付で統合すると発表(2017年11月30日)しました。

  • 炭素繊維(東レ提供)
  • 炭素繊維 プリプレグ(帝人提供)

ゴルフ、テニス、釣りに不可欠の素材

スポーツ用品は昔から炭素繊維の主力市場の一つで、1970年代から採用され、今ではなくてはならない素材となっています。ゴルフクラブ、テニスラケット、釣りざおなどは炭素繊維がたくさん使われていますが、その理由は軽量化や剛性を高めるためです。
ゴルフクラブではシャフト部分に炭素繊維を使います。金属製に比べて非常に軽いため、同じ力でゴルフクラブを振ると、スイングスピードが金属製の物よりも早くなります。別の言い方をすると、飛距離が伸ばすことができます。シニアプレーヤーや女性プレーヤーなどを中心に炭素繊維を使ったゴルフクラブが増え、現在はプロとアマチュアを問わず、多くのゴルフプレーヤーが炭素繊維を使ったゴルフクラブを愛用しています。

  • 炭素繊維を使ったゴルフシャフト(三菱ケミカル提供)

テニスラケットも軽いという理由から炭素繊維が使われています。もともとテニスラケットは木材や金属製が多かったのですが、炭素繊維を使って軽量化することで、運動量が多いテニスにおいて、プレーヤーへの負担が軽減できます。
軽さだけでなく、硬いという炭素繊維の特長が評価されているのは釣りさおです。硬いため、”ひき”が釣り手の延長として感じることができます。当初は鮎さおからスタートし、微妙な”ひき”が分かる小形魚用として炭素繊維の釣りざおは広がりました。
そのほか、スポーツ用品ではカヌーや野球のバットなどにも炭素繊維が使われています。カヌーでは軽量化だけでなく、炭素繊維を使うことで頑丈にすることができます。炭素繊維を使った野球のバットはアマチュア野球を中心に打撃時の手のしびれが抑えられることや打球のスピードが速く飛距離が伸びることからアマチュア野球で使います。打球音や打った時の感覚は木製バットに近いそうです。

金属代替で航空機、宇宙産業、自動車まで

身近なスポーツ用品以外ではさまざまな産業資材に使われています。特に有名なのは航空機です。炭素繊維で強化したプラスチックは「軽くて、硬く、強い」ため、金属を使用するよりも機体を大幅に軽量化することができます。民間航空機での使用量は当初は全体(機体重量)の3%程度でしたが、現在の新機種(エアバスA380、ボーイング787)などは50%以上を炭素繊維で強化したプラスチックを使用した新機種も登場しています。

  • © AIRBUS(ボーイング社提供)

航空機だけでなく、宇宙分野でも炭素繊維が使われています。2010年、奇跡的に地球へ帰還した小惑星探査機「はやぶさ」。諦めずに頑張る姿は映画にもなり、感動した人もいると思いますが、そのはやぶさにも炭素繊維が使われています。
こうしたスポーツ用品、航空機などの分野に続いて、1990年後半からは一般産業用でも炭素繊維を使うケースが急速に増えてきました。風力発電はその一つです。風力発電は高い成長を続けていますが、風車(ブレード)が大型化する中で、軽量で強く、しなりの少ない炭素繊維強化プラスチックが必要とされるためです。

  • © VESTAS

今後の成長が最も期待されているのが自動車用途です。実は、F1などレーシングカーには炭素繊維がたくさん使われています。1秒を争うレースの世界では車体重量の軽量化は大きなポイントであり、軽量化につながり、安全性も確保できる炭素繊維で強化したプラスチックがさまざまな部分に使われています。
その技術を応用して、通常の自動車用途でも炭素繊維を使うたもの開発が進んでいます。軽量化を図ることで燃費が向上すれば二酸化炭素削減にもつながるからです。既に高級車には採用が始まっていますが、量産車に採用するために低コスト化や量産技術の確立などが進んでいます。
これらの分野以外でも、自動車燃料に使う圧縮天然ガスタンクや送電線、海底油田、土木建築、医療機器など、炭素繊維が活躍する場はどんどん広がっています。日本発の技術であり、東レ、帝人、三菱ケミカルという日本の3社が果たす役割は大きいと言えるでしょう。

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