日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/夏を快適にする機能
吸水速乾・調湿

熱帯地域かと思われるほど、近年における日本の夏は気温が上昇します。気温が35℃を超える酷暑も当り前になり、「国内最高気温を更新した」といった報道も珍しくなくなりました。その一方で、東日本大震災後は、冷房だけに頼らずに夏を快適に過ごすための工夫が従来にもまして求められるようになりました。日本の化学繊維メーカーは多くの機能素材を開発していますが、夏季の快適性を高めるものでは汗対策が中心になりますが、吸水速乾や調湿などが代表的な機能になります。現在では機能を一つに絞り込むのではなく、紫外線カットや汗の臭いを防ぐ消臭性などを加えて、複数の機能を訴求する素材も増えています。

毛細管現象を利用した吸汗速乾素材
~東レ「フィールドセンサー」~

吸汗速乾素材は文字通り、汗を素早く吸収して乾かし、衣服内をドライで快適な状態に保つ素材です。その仕組みの一つが毛細管現象の利用で、生地の肌側についた汗を外側に移動させてから、素早く拡散させてしまうというものです。東レの「フィールドセンサー」は太さの異なる糸を組み合わせながら生地を多層構造にしています。それぞれの層によって生地の密度を異なる形にして毛細管現象を発生させるので、吸収された汗は肌面から生地の表面へ一方向に速やかに移動して拡散され、衣服内の不快なベタツキを軽減することができます。生地の肌面は凹凸構造にして、肌への接触面積を少なくし、肌離れ性を高めています。同素材が開発・上市されて久しいですが、根強い人気を誇っています。軽量化してさらに吸汗速乾性能を向上した「フィールドセンサー秒乾」などのサブブランドも広がりを見せています。

  • 「フィールドセンサー」の多層構造図
  • 太さの異なる糸を2層3層に組み合わせた多層構造の毛細管現象で、汗を多量に吸収、一方向に移動・拡散させ乾燥させます

撥水糸で大量の汗に対応
~東洋紡STC「メガテックドライ」~

運動をした時など大量に汗をかくシーンにも対応するため、吸水速乾機能にさらなる工夫を加えた素材も開発されています。その一つが、東洋紡STCの「メガテックドライ」です。吸水ポリエステルと撥水ポリエステルを組み合わせることで、大量の汗をかいた時の衣服内をドライな状態に保つことができるようにしています。一定量を超える大量の汗については生地の肌側の凸部分に配した撥水糸が水分をはじいて衣服の下に落としてしまいます。それと同時に吸汗速乾機能も働きますので、従来以上の汗処理能力を実現しました。

  • 外気側は水分(青色)を吸って拡散する。肌側は水分を吸わずに(白色)吸水量を調整。
    ウエアの肌側に撥水ポリエステルを凸状に配置することにより、大量の発汗において吸水層に移行した汗が逆戻りすることなく肌側はドライに保ちます

繊維が動いて通気を調整
~三菱ケミカル「ベントクール」~

汗をかいて生地が濡れると通常は通気性が悪くなり、衣服内が蒸れる原因となりますが、それを防ぐために生地が動いて通気度をコントロールする素材も販売されています。三菱ケミカルの「ベントクール」はアセテート繊維を使ったニット素材ですが、生地が水を含むと編み目が開き、乾くと元の状態に戻る機能を持っています。同商品には特殊な糸を使っており、乾燥状態では繊維の持つ捲縮が通気性を抑制し、発汗による湿潤状態では伸長します。生地の状態に応じて編み目が調整されるのはこのためです。

  • 乾燥時の糸側面
  • 湿潤時の糸側面
  • 乾燥時の編み目
  • 湿潤時の編み目

ナノレベルの超極細繊維
~帝人フロンティア「ナノフロント」~

化学繊維が持つ特性を生かした涼感素材も数多く開発されています。その一つが帝人フロンティアの「ナノフロント」です。直径が700ナノメートルという超極細のポリエステルで、断面積は髪の毛の7500分の1という細さです。繊維が細くなればなるほど蒸散面積は広くなりますので、それだけ高いクーリング性能を発揮することになります。その蒸散面積は従来品の数十倍で、汗を速やかに吸収・拡散し、体温の上昇を抑えます、さらに毛細管現象と繊維の吸着作用によって吸水・保水性も発揮します。

  • 「ナノフロント」(繊維径700ナノメートル)
  • 髪の毛(繊維径60マイクロメートル)
  • 通常のポリエステルと「ナノフロント」の体温上昇比較テストの結果

優れた吸水速乾性と接触冷感性を併せ持つ
~クラレトレーディング「ソフィスタ」~

クラレトレーディングの「ソフィスタ」は、エチレンビニルアルコール(EVOH)とポリエステルを組み合わせた繊維素材で、優れた吸水速乾性と触った時にひんやりする接触冷感性などの特長を持っています。EVOHは親水基を持っており、水を吸収・放湿する特長を有しています。ソフィスタは内側がポリエステル、外側がEVOHという芯鞘の特殊な構造をしており、繊維表面に位置するEVOHが肌から汗を吸収します。内側のポリエステルは水分を取り込まず、拡散させて汗を素早く蒸発させます。水分が蒸発する時には熱を奪いますので、衣服内の温度を下げる効果につながります。さらに、EVOHは熱伝導性の高さという特徴も持っています。肌から熱を奪いやすいため、触った時には冷たく感じ、気化熱とのWの効果で涼感をもたらします。

  • 「ソフィスタ」の繊維断面

優れた吸放湿性
~旭化成「ベンベルグ」~

旭化成が展開するキュプラ繊維「ベンベルグ」は、綿花の種子を包んでいる産毛状の繊維を原料にした素材です。綿やレーヨンと異なり、表面にスキン層がなく多孔質なので、吸放湿性に優れ、蒸れやベタツキを抑える効果があります。公定水分率が高く静電気を外に逃がしやすいという特長もあることから、スーツなどの裏地で人気があります。最近では繊維の1本1本が細くて断面が真円に近く肌に優しい点や接触冷感性などの特長を生かして、夏場の肌着やスポーツ、寝装品などの用途でも評判を得ています。

ベンベルグの特性を生かした汗対策素材のひとつ「シュアドライマックスβ」は、毛細管現象を応用したポリエステル素材の吸水速乾機能に加えて、吸湿・吸水性に優れるベンベルグを生地の中層に配置することによって生地肌面の水分を積極的に生地表面に移動させ、肌面のドライさを高いレベルでキープします。また、「シュアドライ―∞(インフィニティ)®」は、機能の持続性を大きく向上させています。従来の吸水剤を後加工で付与する吸水速乾素材では洗濯を繰り返すことによって徐々に吸水機能が低下する課題がありましたが、「シュアドライ―∞®」はポリマーと加工段階での特殊技術によりポリエステル表面を親水化し、糸そのものに吸水性を持たせているので、洗濯100回後も機能が持続します。
そのほかにも「モイステックスクール」「ペアクール」(糸)など、ベンベルグの特性を生かした素材が数多く開発されています。

  • 「シュアドライマックスβ」の繊維構造
  • 「ペアクール」

2つの機能素材で生地をドライに
~ユニチカトレーディング「ハイグラ®-LU」~

ユニチカトレーディングの「ハイグラ®-LU」は、高い吸湿性と放湿性を併せ持つナイロン「ハイグラ®」と吸水発散性に優れるポリエステル「ルミエース®」を組み合わせた素材です。
ここで使われている「ハイグラ®」は、自重の約35倍の吸水能力を持つポリマーをナイロンで包み込んだ芯鞘構造の糸で、軽くて薄く、しなやかというナイロンの特性を持ちながら、高い吸放湿性を付与しています。
また、もう一方の「ルミエース®」は糸の断面を特殊な異型構造にすることで吸水速乾機能を高めたポリエステルです。「ハイグラ®-LU」は、この2つの素材特性を組み合わせ、夏場の蒸し暑い日でも生地をドライに保つことができる形にしています。

本文および写真の無断転載はお断りします。