吸汗速乾素材は文字通り、汗を素早く吸収して乾かし、衣服内をドライで快適な状態に保つ素材です。その仕組みの一つが毛細管現象の利用で、生地の肌側についた汗を外側に移動させてから、素早く拡散させてしまうというものです。東レの「フィールドセンサー」は太さの異なる糸を組み合わせながら生地を多層構造にしています。それぞれの層によって生地の密度を異なる形にして毛細管現象を発生させるので、吸収された汗は肌面から生地の表面へ一方向に速やかに移動して拡散され、衣服内の不快なベタツキを軽減することができます。生地の肌面は凹凸構造にして、肌への接触面積を少なくし、肌離れ性を高めています。同素材が開発・上市されて久しいですが、根強い人気を誇っています。軽量化してさらに吸汗速乾性能を向上した「フィールドセンサー秒乾」などのサブブランドも広がりを見せています。
「フィールドセンサー」の多層構造図
太さの異なる糸を2層3層に組み合わせた多層構造の毛細管現象で、汗を多量に吸収、一方向に移動・拡散させ乾燥させます
運動をした時など大量に汗をかくシーンにも対応するため、吸水速乾機能にさらなる工夫を加えた素材も開発されています。その一つが、東洋紡STCの「メガテックドライ」です。吸水ポリエステルと撥水ポリエステルを組み合わせることで、大量の汗をかいた時の衣服内をドライな状態に保つことができるようにしています。一定量を超える大量の汗については生地の肌側の凸部分に配した撥水糸が水分をはじいて衣服の下に落としてしまいます。それと同時に吸汗速乾機能も働きますので、従来以上の汗処理能力を実現しました。
外気側は水分(青色)を吸って拡散する。肌側は水分を吸わずに(白色)吸水量を調整。
ウエアの肌側に撥水ポリエステルを凸状に配置することにより、大量の発汗において吸水層に移行した汗が逆戻りすることなく肌側はドライに保ちます
クラレトレーディングの「ソフィスタ」は、エチレンビニルアルコール(EVOH)とポリエステルを組み合わせた繊維素材で、優れた吸水速乾性と触った時にひんやりする接触冷感性などの特長を持っています。EVOHは親水基を持っており、水を吸収・放湿する特長を有しています。ソフィスタは内側がポリエステル、外側がEVOHという芯鞘の特殊な構造をしており、繊維表面に位置するEVOHが肌から汗を吸収します。内側のポリエステルは水分を取り込まず、拡散させて汗を素早く蒸発させます。水分が蒸発する時には熱を奪いますので、衣服内の温度を下げる効果につながります。さらに、EVOHは熱伝導性の高さという特徴も持っています。肌から熱を奪いやすいため、触った時には冷たく感じ、気化熱とのWの効果で涼感をもたらします。
「ソフィスタ」の繊維断面
旭化成が展開するキュプラ繊維「ベンベルグ」は、綿花の種子を包んでいる産毛状の繊維を原料にした素材です。綿やレーヨンと異なり、表面にスキン層がなく多孔質なので、吸放湿性に優れ、蒸れやベタツキを抑える効果があります。公定水分率が高く静電気を外に逃がしやすいという特長もあることから、スーツなどの裏地で人気があります。最近では繊維の1本1本が細くて断面が真円に近く肌に優しい点や接触冷感性などの特長を生かして、夏場の肌着やスポーツ、寝装品などの用途でも評判を得ています。
ベンベルグの特性を生かした汗対策素材のひとつ「シュアドライマックスβ」は、毛細管現象を応用したポリエステル素材の吸水速乾機能に加えて、吸湿・吸水性に優れるベンベルグを生地の中層に配置することによって生地肌面の水分を積極的に生地表面に移動させ、肌面のドライさを高いレベルでキープします。また、「シュアドライ―∞(インフィニティ)®」は、機能の持続性を大きく向上させています。従来の吸水剤を後加工で付与する吸水速乾素材では洗濯を繰り返すことによって徐々に吸水機能が低下する課題がありましたが、「シュアドライ―∞®」はポリマーと加工段階での特殊技術によりポリエステル表面を親水化し、糸そのものに吸水性を持たせているので、洗濯100回後も機能が持続します。
そのほかにも「モイステックスクール」「ペアクール」(糸)など、ベンベルグの特性を生かした素材が数多く開発されています。
「シュアドライマックスβ」の繊維構造
「ペアクール」
ユニチカトレーディングの「ハイグラ®-LU」は、高い吸湿性と放湿性を併せ持つナイロン「ハイグラ®」と吸水発散性に優れるポリエステル「ルミエース®」を組み合わせた素材です。
ここで使われている「ハイグラ®」は、自重の約35倍の吸水能力を持つポリマーをナイロンで包み込んだ芯鞘構造の糸で、軽くて薄く、しなやかというナイロンの特性を持ちながら、高い吸放湿性を付与しています。
また、もう一方の「ルミエース®」は糸の断面を特殊な異型構造にすることで吸水速乾機能を高めたポリエステルです。「ハイグラ®-LU」は、この2つの素材特性を組み合わせ、夏場の蒸し暑い日でも生地をドライに保つことができる形にしています。
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