日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/夏を快適にする機能
遮熱・UVカット

暑い夏を快適に過ごす方法として、太陽光を遮る機能繊維も主流です。太陽光には可視光線、赤外線、紫外線が含まれますが、繊維に無機微粒子を練り込んでこれらを透過させないようにし、衣服内の温度上昇を抑える機能付与がよく採用されています。特に紫外線(UV)はシミ、シワ、老化だけでなく、皮膚がんなどの原因にもなるとされ、近年ではその対策への関心が高まっています。夏が近づくと日焼け止めやUVカットの化粧品が欠かせないという人も多いと思いますが、化学繊維でも効果的に紫外線を遮蔽する素材が多くあり、衣服やカーテン、日傘、帽子など様々なアイテムに使われているのです。

微粒子を練り込んでUVカット

化学繊維にUVカット性能を付与する代表的なやり方は、酸化チタンや特殊セラミックの微粒子を繊維の中に練り込むという手法です。酸化チタンや特殊セラミックには紫外線を吸収・乱反射させる効果があり、高濃度に練り込むことで紫外線の肌に達する量を大きく軽減することができます。
綿などの天然繊維では生地に紫外線吸収剤を付ける後加工を施す形が主流ですが、練り込みはこの手法に比べて吸収剤が落ちにくく、継続して使用しても効果が低下しにくいなどのメリットもあります。
また、光を透過させにくくするということは「透けにくさ」にもつながります。こうした原理による遮熱・UVカット生地の多くが「防透け性」という機能も備えています。

例えばユニチカトレーディングの「サラクール®」は高濃度の特殊セラミックを繊維内に練り込むことで、太陽光を吸収・乱反射させる機能を持たせています。これにより紫外線の透過を防ぐとともに、特殊セラミックが熱線(赤外線)を遮ることによるクーリング効果、可視光線を防ぐことによる防透性能も合わせ持つ素材にしています。

  • 「サラクール®」の顕微鏡写真
    (ユニチカトレーディング提供)

また、旭化成の「キュアベール®S」は、特殊セラミックを練り込んだキュプラ繊維「ベンベルグ®DF」と特殊ポリエステルの双方の効果でUVブロック機能を持たせています。可視光線もカットするため、この素材を使った肌着は白色でも透けにくく、それは汗に濡れても変わらないという特徴も持ちます。また、「ベンベルグ®」の特徴の一つである吸湿放湿性により、涼感性能も付与されています。

  • 「キュアベール®S」のUVカット率データ
    (旭化成提供)
  • 「キュアベール®S」の透けにくいメカニズム
    (旭化成提供)

糸形状で光を反射

糸に太陽光を遮蔽する物質を練り込むと同時に、糸の断面形状を変えて、UVカット性能をさらに高めた素材も開発されています。通常の糸の断面は丸型ですが、太陽光を乱反射しやすい特殊な形状に変え、糸の表面の段階で反射させて紫外線の透過量を減らすというやり方です。

例えば東レの「ボディシェル®」は、糸の芯部に酸化チタンを練り込むとともに、糸断面の形状を星型にしたナイロン素材です。これによりUVカット性能と防透け性を持たせており、「透けない水着」としても多く採用されています。また、ファミリー商品として、白や淡色でもインナーの色が透けにくく、吸汗速乾性やクーリング性を合わせ持つポリエステル素材「ボディシェル®ドライ」なども展開しています。

  • 「ボディシェル®ドライ」の顕微鏡写真
    (東レ提供)

また、クラレトレーディングの「レクチュール®」はポリエステルに酸化チタンを練り込むとともに、糸の形状を十字断面にしたUVカット素材で、婦人衣料などの用途で展開しています。糸の断面を十字型にすると表面積が広がるので、光の透過率を低減するとともに吸水速乾性を高めることにもつながります。

  • 「レクチュール®」「スペースマスター®UV」の顕微鏡写真
    (クラレトレーディング提供)

糸と編み方で工夫

ニットは織物に比べて隙間が多いので太陽光を通しやすいのですが、現在は高いUVカット性能を持つニット素材も開発されています。東洋紡STCの「レイブロック®」は特殊セラミックスを練り込んだ高捲縮タイプのポリエステル糸を使うとともに、それを高密度に編み込むという手法で、UVカット機能を持たせました。細い糸に特殊セラミックスを高密度に練り込むことは難しいという問題もクリアし、薄地でも高いUVカット性能を持たすことを実現。夏場のビジネスシーンでも注目が高まっているニットのシャツ地などで使われています。

  • 「レイブロック®」のイメージ図
    (東洋紡スペシャルティズトレーディング提供)

ユニフォーム、カーテンにも

酸化チタンや特殊セラミックなどの無機微粒子を使わずにUVカット機能を付与した素材もあります。
三菱ケミカルは、特殊ポリプロピレンをポリエステルで包み込んだような構造の遮熱素材「ソルシールド®」を展開しています。日焼けにつながる紫外線から暑さの原因となる赤外線まで太陽光を反射・散乱させることで暑さを和らげる効果があり、夏場のワーキングウェアに適しています。
「ソルシールド®」の糸構造は、芯部がポリプロピレン、鞘部がポリエステルという二層構造になっています。の各層で太陽光の透過を抑制し、衣服内温度の上昇を抑えることができます。また、ポリプロピレンは軽く、熱を伝えにくいなどの特徴を持つ一方で、染色しにくいという衣服に使いにくい面もありましたが、「ソルシールド®」は糸の表面にあたる鞘部にポリエステルを使っていますので、発色性や染色堅牢度などに関して通常ポリエステルと同様に扱うことができる点も特徴の一つです。

  • 「ソルシールド®」(三菱ケミカル提供)

また、帝人フロンティアの「ウェーブロン®UV」は、特殊な紫外線カット剤を共重合させた新規ポリマーによるUVカット素材です。この商品の元となる「ウェーブロン®」は「透けないカーテン」として人気があるポリエステル素材で、糸断面を四つ山扁平形状とし、生地の向こう側の人や物をはっきり見ることができない遮像性と高い採光性という二つの機能を両立させています。「ウェーブロン®UV」はさらに畳や家具を日焼けから守るためのUVカット機能も付与させました。

  • 「ウェーブロン®UV」のカーテン
    (帝人提供)
  • 「ウェーブロン®UV」の顕微鏡写真
    (帝人提供)

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