環境省によると、日本で花粉症の原因となる花粉はスギやヒノキ、ブタクサなど約60種類もあるとされています。飛散量が多い季節はスギやヒノキなどが春先、カモガヤなどの稲科は初夏、ブタクサやヨモギなどのキク類は真夏~秋口となっており、春以外の季節に花粉飛散量が増える種類も多くあります。また、花粉症の原因となるのは花粉量が多く、風で遠くまで運ばれる風媒花が中心ですが、虫が花粉を運ぶ虫媒花の中にも花粉症の原因となるものがあると考えられています。
花粉症に悩まされる人は増加傾向にあるだけでなく、発症期の低年齢化も進んでいると言われています。花粉症への関心が高まる中で市場には花粉症対策商品が数多く打ち出されており、日本の化学繊維が活躍する場も増えているのです。
花粉は春先以外にも飛散
生地表面を滑りやすくして花粉を落とす
素材の中で最も花粉が付きやすい素材はウールです。綿やポリエステルなどの化学繊維は比較的、付着しにくいとされています。ただ、花粉症に悩まされる人にとっては少量の花粉も気になるところですので、日本の合繊メーカーは様々な工夫を凝らしながらそのニーズに応えています。
衣服に使われる花粉対策素材の代表的な手法は、生地を高密度にするとともに、加工を施して生地表面を滑りやすくするというものです。生地を高密度にするのは、糸と糸の隙間を非常に小さくして花粉が衣服内に入り込まないようにするためです。そして、生地表面に加工を施して生地に花粉が付着しにくくするとともに、一旦付いた花粉も落ちやすくしています。これらの工夫に加え、花粉がまとわりつく原因の一つとなる静電気を抑制する機能を持つ糸を使用したり、ナノ技術による加工などでさらに機能性を高めた花粉対策素材も開発されています。
東レ「アンチポラン®」
東レは花粉対策素材として「アンチポラン®」シリーズを展開しています。「アンチポラン®」の生地は高密度に織って糸と糸の隙間を花粉の直径よりも小さくしており、物理的に衣服内に侵入しにくくしています。そして生地表面には独自技術による「AP(アンチポラン)®加工」を施して滑りやすくし、生地に花粉が付着しにくくするとともに、付着した花粉も簡単に落とすことができるようにしています。
この素材をベースに、ナノテクノロジーでさらに性能を高めた素材が「アンチポラン®NT」です。高密度織物に樹脂を加工する際にナノ技術を用いており、単繊維の一本一本にナノスケールの被膜を形成しています。ナノスケールで加工を行うため、繊維に強固に付着させることができるとともに、薬剤が露出する表面積が大きくなり、耐久性と機能性がさらに向上します。また、ナノスケールなので加工による生地の風合いの変化も最小限に抑えることができ、スプリングコート、スポーツ衣料、カジュアル衣料などの分野に広がっています。
付きにくさ(左:アンチポラン®、右:従来品)
落ちやすさ(左:アンチポラン®、右:従来品)
花粉の付着量比較テスト
帝人フロンティア「ポランバリア®」
帝人フロンティアは、花粉対策素材として「ポランバリア®」シリーズを展開しています。「ポランバリア®V」は細い糸を高密度に織り上げて衣服内に花粉が入り込みにくくするとともに、特殊加工によって繊維表面を平滑にして花粉を落ちやすくして部屋内への侵入を防ぎます。さらに撥水・透湿性能なども合わせ持ち、花粉脱落率は80%を実現しています。
さらに静電気の発生を抑えることで花粉の付着を防ぐ「ポランバリア®AS」も開発しています。糸には独自の制電ポリマーによる高性能制電ポリエステル糸「ビーウェル®」を使っており、「ポランバリア®」の製織技術・特殊加工技術を組み合わせてさらに機能性を高めています。
花粉脱落性評価試験(左:ポランバリア®AS、右:従来品)
<参考>
経済産業省 花粉症対策について
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