日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/安全な機能
防災対策用素材

私たちが住んでいる日本は、山や川をはじめとする豊かな自然に恵まれている国です。しかしながら災害も多く、「災害大国」と呼ばれることもあります。台風が上陸すれば強い風が吹き、大雨が降ります。突然地震も発生します。皆さんも怖い思いをしたことがあるのではないでしょうか。地球温暖化の影響で海水の温度が上昇し、大型で強い台風の発生件数や上陸回数が今後増えていくと予想されています。また、いつ大きな地震が起こるかも分かりません。

日本の道路や橋が造られたのは何十年も前

大雨や地震などの災害が起こった時、道路橋やトンネルなどの建築物がしっかりしていると防災対策として安心できますよね。でも日本の道路橋やトンネルなどのコンクリート構造物の多くが何十年も前に造られていることを知っていましたか。国土交通省の報告によると、2033年には、建設されてから50年以上が経過する割合は、道路橋で約63%、トンネルで約42%と言われています。長い年月が経過すると、硬かったコンクリートや鉄筋などが劣化し、弱くなってしまいます。このため、補修や補強などのメンテナンスが欠かせないのです。

被害を抑えるために大切な防災対策

それでは、なぜ防災対策、建築物の補修・補強が必要になるのでしょうか。簡単に言うと、皆さんの大切な命や財産を守るためです。災害が発生した時の被害を最小限に抑えるためにも防災対策は大切なのです。

少し難しいお話になるのですが、説明しましょう。2011年に東北地方の三陸沖を中心とする地震(東北地方太平洋沖地震)が発生し、非常に大きな被害が出ました。特に被害が多かったのは、1981年に施行された新耐震設計法以前の基準で設計された建築物でした。新しい耐震基準に合致した建築物は比較的被害が小さかったと言われています。古い建築物であったとしても補修・補強によって新しい基準をクリアすることができます。これは道路橋や鉄道高架橋、トンネルだけでなく、家でも同じです。そのほか、港や川の堤防などでの防災対策も不可欠になっています。

先ほど、昔に建てられたコンクリート建造物などは少しずつ弱くなっていくとお話しましたね。弱くなったり、壊れたりという不具合がおこってから対策をとることを「事後保全」と言います。今は、不具合などが起こる前に対策する「予防保全」が重視されています。それが補修・補強なのですね。新しく建物を作る際にコンクリートなどを強化する繊維はもちろんですが、補修・補強のための繊維にも注目が集まっています。

建築物だけでなく、建物内の火災対策、耐火性に優れた防護衣料などにも防災には欠かせません。

人手不足が大きな課題に

道路橋やトンネル、鉄道高架橋などの建造物が古くなっていることは問題ですが、それらを維持管理する技術者が減っていることも心配の種になっています。建設の現場では、高い技術を持つ人が引退する年齢になりつつあって、働く人が足らなくなると言われています。技術を受け継ぐこともできなくなるかもしれません。人に代わるロボットやドローンの活用、ITをはじめとする最先端技術を使うことが必要ですね。新しいアイデアや発想の転換も求められるでしょう。

今回の活躍する化学繊維では、防災対策素材を紹介します。

緊急避難用の寝具などを展開
~旭化成グループ「デュポン™タイベック®ソフトウェアESB」など~

旭化成グループの旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツは、フラッシュ紡糸不織布「タイベック®」を使った製品を販売しています。その一つが使い切り緊急避難用寝具(寝袋タイプ)の「デュポン™タイベック®ソフトウェアESB」です。災害用毛布と比べて保温性に優れ、適度な透湿性も持ちます。そのほか、約300㌘で軽く、コンパクトといった特徴も持っています。毛布に代わる防災用品として会社や避難所、パブリックスペースなど幅広い場所で使用できます。「デュポン™タイベック®ソフトウェア」は作業者を有害物質から守る化学防護服です。バリア性と耐久性、快適性のバランスに優れています。感染症対応、アスベスト除去、焼却炉メンテナンス、工場内の清掃や定期修繕、がれき・廃棄物処理、放射性粉じん作業時などで活躍します。

  • 「デュポン™タイベック®ソフトウェアESB」(旭化成提供)

橋梁やトンネルの補強・補修に
~クラレ「クラレビニロン」など~

クラレは橋梁やトンネル、のり面、盛り土などの補強・補修に使用されるビニロン(ポリビニルアルコール繊維)を展開しています。ビニロンは1950年にクラレが世界で初めて工業化に成功した国産第1号の合成繊維です。耐アルカリ性などの特徴を持ち、コンクリートやモルタルの中でも劣化しません。セメントとの親和性が高いため、補強効果に優れています。炭素、水素、酸素で構成されているため、焼却時にダイオキシンやアンモニアなどの有害物質が発生しません。「クラレビニロン」「クラテック®」「パワロン®」などをラインアップしています。

  • ビニロンショートカットファイバー(クラレ提供)

コンクリート表面温度を安定化
~セーレン「セレキュアモイスト®」など~

セーレンの「セレキュアモイスト®」は高機能コンクリート養生シートです。高い水分量を長時間保持し、表面の急激な温度低下と湿度低下を抑えることができ、高品質なコンクリートを作ることができます。薄くて、軽量、作業性が高いのも特徴です。一般的な養生シートでは、温度・湿度の変化が大きく、養生環境を安定させるため散水などの付帯作業の負荷が大きくなっていましたが、これも解消することが可能です。「セレキュアブロック®」は、高機能消波・根固ブロック養生カバーです。特殊な製織技術により、散水の水分を通しながら夏の日射から乾燥を防ぎ、冷寒時には水和熱を逃しません。一年を通してコンクリート養生に必要な環境を保持します。

鉄の8倍の強度を持つアラミド繊維
~帝人グループ「トワロン®」「テクノーラ®」など~

帝人が展開しているパラ系アラミド繊維「トワロン®」は高強度、軽量、高い耐久性などの特徴を持ち、自動車や防護服関連からロープやケーブルといった海洋用途まで幅広い分野で用いられています。「テクノーラ®」は鉄の8倍の強度に加え、高弾性率、耐熱性、耐薬品性といった特徴を持つパラ系アラミド繊維です。伝送ベルトや自動車用ホースに加え、ロープ、海底ケーブル、石油・ガス採掘時のパイプラインまで過酷な環境下でも使用できます。「コーネックス®」は耐熱性や耐炎性、耐薬品性、柔軟性に優れたメタ系アラミド繊維で、過酷な環境下における作業従事者向けの防護性の高い作業着への使用が可能です。「コーネックス® ネオ」は後染めが可能なメタ系アラミド繊維です。帝人グループの帝人フロンティアが販売している「エースツイン®」は火災発生時でも燃えにくく、炎と有毒ガスから守る難燃性、繊維上の細菌の増殖を抑える制菌性を組み合わせています。非ハロゲン系難燃剤の共重合難燃素材「スーパーエクスター®」、アラミドの耐熱性・難燃性とモダクリルの消火性を組み合わせた防災インテリア素材「プルシェルター®」などもラインアップしています。

  • 「トワロン®」(帝人提供)
  • 「テクノーラ®」(帝人提供)
  • 「コーネックス®」 (帝人提供)
  • 「コーネックス® ネオ」(帝人提供)

軟弱地盤補強などで活躍
~東洋紡「ボランス®」など~

「ボランス®」は、東洋紡が独自の技術により開発したスパンボンド法によるポリエステル長繊維不織布です。ニードルパンチタイプや樹脂含浸タイプなどがあり、用途で選べます。軟弱地盤補強では、抗張積、引き裂き強度、破裂強度が大きく強靭(きょうじん)で破れにくいシートが活躍します。水を通しながら土砂を通さないので、のり面工や土留壁の吸出防止に使用できます。再生ポリエステルを50%以上使用した「e―ボランス®」は、集中豪雨対策として設置される雨水貯留槽の遮水シートの保護や土砂のろ過機能を持っているので、雨水流出制御層などに用いられます。再生ポリエステルの使用で環境負荷低減にも貢献します。「ボランシール®」は高吸水膨潤性繊維複合不織布です。漏水時に膨潤して汚染水の漏えいを防ぎます。高い強度と貫入抵抗性を持っているので、災害廃棄物の仮置き場などで使用できます。

炭素繊維を使用した織物
~東レ「トレカ®クロス」など~

東レは炭素繊維のトップメーカーであり、織物やCFラミネート(CFRP板)など補修・補強用事業の拡大を積極的に進めています。その一つとして展開している「トレカ®クロス」は、建物や橋、トンネルなど土木建築の補修・補強用途に用いられています。 土木建築用トレカ®クロスは、樹脂含浸確認機能を特徴としています。そのほか、ポリエステル長繊維不織布「アクスター®」、フッ素繊維「トヨフロン®」などをラインアップしています。「アクスター®」は、合成繊維の製造技術を基に独自の方法で開発しました。優れた機械的性質、寸法安定性、耐熱性、耐候性、耐腐食性を兼ね備えているほか、透水性やフィルター性能を保持し、土砂のセパレーション効果を長期にわたって維持します。防災用途では土の補強、排水、地盤分離、ろ過効果などに役立っています。「トヨフロン®」は合成繊維の中で最高レベルの摺動性、耐熱性、耐薬品性、離型性を備えています。独自の製法によりばらつきのない均一な繊度を実現し、免震用途などで活躍しています。

  • 「トレカ®クロス」(東レ提供)
  • 左:橋脚での使用例 右:道路床板での使用例(東レ提供)
  • 「トヨフロン®」(東レ提供)

多種多様な用途で展開
~三菱ケミカル「ゴビマット™」「リペラーク™」など~

三菱ケミカルは、繊維を活用した幅広い防災用途を提案しています。耐久性を高めたポリエステル補強ポリプロピレン不織布シート「ダイヤベースHS™」は、土中に簡易に施設することで、優れたすべり補強効果と面排水機能により、高台や堤防等の盛土を補強します。「ゴビマット™」は、このシートに多数のコンクリートブロック一体化したブロックマットで、河川やため池の法面の補強や早期復旧に使用されております。炭素繊維を施工性の良いシート状に加工した「リペラーク™」、板状成形「eプレート」、棒状成形「リードライン™」は、橋梁や建物など様々な構造物の耐震性能を向上させます。避難所や車中泊の用途では、ポリプロピレン繊維中に安全性が高い防虫忌避剤を練り込んだ「クリーンライフ™ NEO」が虫媒介の感染症対策に、消臭アクリル系繊維「キュートリー™」は、洗濯100回繰り返しても、消臭性能は落ちずダンボールベッド等の寝具として、避難生活を支えます。

  • 「リードライン™」(三菱ケミカル提供)
  • 「 リードライン™」 施工の様子(三菱ケミカル提供)
  • 「 クリーンライフ™ NEO」(三菱ケミカル提供)
  • 「キュートリー™」(三菱ケミカル提供)

燃えにくい、飛沫防止のパーテーション
~ユニチカトレーディング「ホノガード™」~

ユニチカグループのユニチカトレーディングが展開している「ホノガード™」は、ユニチカが開発した特殊樹脂と極薄ガラスクロスを使用した透明シートです。建築基準法で定める不燃材料の基準を満たします。延焼の恐れがあるアクリル板や塩化ビニールの間仕切りに代わる製品として、新型コロナウイルス対策を進めている店舗やオフィスの需要を見込んでいます。

(2021年4月掲載) 本文および写真・図(イラスト)の無断転載を禁じます。