日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/身近で活躍する機能
自動車向け素材

18世紀に登場した自動車は蒸気だった

原動機の動力によって車輪を回転させて路上を走る物。それが自動車です。道路でよく見かける自家用車、バス、トラック、バイクなども全て自動車になります。現代社会ではなくてはならない乗物ですね。運転免許を持っていない人はいますが、自動車に乗ったことがない人はいないのではないでしょうか。

自動車は18世紀に蒸気機関を用いた蒸気自動車として登場しました。19世紀の後半(1870年代から1880年代)にかけてはオーストリアやドイツでガソリンの内燃機関を用いた自動車の製作や特許取得が行われました。1896年には米国でガソリン自動車が開発され、急速に普及していくことになります。それまで米国の大通りには馬車が走っていたのですが、急速に自動車が普及します。1910年代~1920年代には大衆車の普及も始まりました。日本では明治時代にフランスから自動車が輸入されました。

進化を続けている自動車、空飛ぶ車も

自動車はどんどん進化しています。その中で生まれてきたのが「CASE」です。コネクテッドの「C」、自動運転(Autonomus)の「A」、シェアリングとサービスの「S」、電気(Electric)の「E」の頭文字から取った造語です。この四つを最適に組み合わせることで次世代の自動車が誕生します。家の自動車がハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)と言う人はいるかもしれません。自動運転の技術もどんどん進んでいます。

この「CASE」が進化したその先にあるものとして言われているのが「MaaS」です。「モビリティー・アズ・ア・サービス」の略で、日本語で言うと「モビリティーはサービスと同じ」という意味です。移動をサービスと捉える考え方ですね。自動車のような個人的な乗物から電車やバスなどの公共交通も含まれています。

さらに空飛ぶ自動車も実現が近づいてます。人や物を空飛ぶ自動車などを使って輸送する都市交通システム「アーバン・エア・モビリティー」(UAM)と呼ばれています。外国では実証実験が既に始まっています。

車の発展を支えてきた化学繊維

こうした車の進化や発展を支えているのが、化学繊維の素材です。例えばカーシートです。これには化学繊維の人工皮革などが使われています。座り心地や触り心地も快適です。自動車を支えるタイヤには補強材として繊維が使われています。また走行音やエンジン音などのノイズを静かにするための吸音材でも活躍しています。

今回の活躍する化学繊維では、自動車向け素材を紹介します。

環境と人に優しいスエード調人工皮革を展開
~旭化成「ラムース®」など~

旭化成が展開している「ラムース®」は独自の3層構造を持つスエード調人工皮革です。原料の一部にリサイクル原料由来のポリエステルを使うほか、製造工程で有機溶剤を使用していません。また製造の際は自社水力発電による再生エネルギーを一部に使用するなど、環境と人に優しい素材です。自動車での主な展開用途は内装やシートです。「プレシゼ®」はスパンボンドとメルトブローの3層構造でできたポリエステルの不織布です。既存の吸音材に貼り合わせることで、吸音性能を向上させ、快適な音空間を作り上げることができます。薄型・軽量な電磁ノイズ吸収シートが「パルシャット®」です。不織布を基材とした非常に軽量な製品であるため、金属や樹脂系のシートに置き換えることで自動車の軽量化に寄与することができます。

  • 「ラムース®」(旭化成提供)
  • 「プレシゼ®」成型品(旭化成提供)
  • 「パルシャット®」(旭化成提供)

自動車用ブレーキホースなどのゴム資材に
~クラレ「クラレビニロン」など~

クラレは、ビニロン繊維(ポリビニルアルコール繊維)「クラレビニロン」を展開しています。1950年にクラレが世界で初めて工業化に成功した国産第1号の合成繊維で、高強力、低伸度、優れたゴムとの接着性といった特徴を生かして自動車用ブレーキホースをはじめとするゴム資材の補強材として使用されています。ビニロン繊維は焼却時にアンモニアやダイオキシンといった有害物質が発生しにくいのも特徴の一つと言えます。

カーインテリア用素材を幅広く
~セーレン「クオーレ®」など~

セーレンは、カーインテリア用の素材を数多くラインアップしています。耐久性や軽量感、価格で本革を超える素材と位置付けているのが「クオーレ®」です。多様なラインアップがそろっているのですが、環境に優しいのも特徴です。製造工程における環境負荷物質を極力使用しないことや製品の耐久性を向上することを通じて環境負荷低減に貢献しています。「ラックススェード®」は上質で滑らかなタッチのカーインテリア用人工皮革です。同じくカーインテリア用人工皮革の「パールスエード®」は真珠のような美しい艶が特徴です。「ダイヤトーン®」は異素材感や凹凸感を、繊細にも大胆にも自由なデザイン表現が可能です。そのほか、カーインテリア用の素材では艶と色、凹凸をシンクロさせた「オーロラビスコテックス®」、ソフトな風合いとしっかり感を両立した「スーパーラッセル®」を展開しています。

  • 「クオーレ®」使用のカーシート素材(セーレン提供)

炭素繊維複合材料やアラミド繊維
~帝人「セリーボ®」「トワロン®」など~

帝人は、炭素繊維やアラミド繊維など、強くて特殊な繊維を自動車用途で展開しています。炭素繊維の「テナックス®」は、重量が鉄の1/4と軽量で、高い弾性率と鉄の5~10倍の強度を有しているのが特長で、乗用車からレーシングカー、さらには電気およびハイブリッドカーまで多くの自動車用途に使用されています。また、「セリーボ®」は、母材に熱可塑性樹脂を使用し世界で初めて製造タクトタイムを約1分にまで短縮したことにより、部品の量産対応を可能にした革新的な炭素繊維複合材料で、量産車の車体構造材などへの採用が進んでいます。複合材料ではガラス繊維もラインアップしています。「TCA Ultra Lite®」は超軽量成形部材で、樹脂充填剤として表面処理を施した微小な中空上のガラス材を用い、独自の真空技術や接着処理を組み合わせることで、素材の低比重化と表面平滑性の両立を実現しています。電着塗装にも適応可能で、外板部材の塗装に求められる「クラスA」品質を誇ります。パラ系アラミド繊維の「トワロン®」は、高強度、軽量で高い耐久性を有しており、自動車向けではタイヤ、ガスケット、ブレーキパッドなどに広く使用されています。「テクノ―ラ®」は鉄の8倍の強度に加え、高弾性率、耐熱性、耐薬品性といった特性を兼ね備える共重合のパラ系アラミド繊維です。タイミングベルトやファンベルトをはじめとするホース類、ギヤ、ガスケット、ワッシャーなどに使用されています。

不織布を中心に幅広い用途で
~東洋紡「ボランス®」など~

東洋紡は、独自技術により開発したスパンボンド法によるポリエステル長繊維不織布を、他社にない幅広い目付範囲(10~1500g/㎡)で展開しています。「ボランス®」はニードルパンチタイプと樹脂含浸タイプの2つのタイプの不織布があり、軽量、成形性、耐熱性が特徴で、自動車内装裏面材や補強材などに使用されています。使用済みペットボトルを原料の50%以上使用した「エコボランス®」や、一部植物から精製した原料を使用した「バイオボランス®」等の環境対応製品もあります。エンボスタイプの「エクーレ®」も同様に軽量、高強度、成形性、耐熱性などが特徴であります。200%以上の伸度があり、特に成形性が優れた「エストーレ®」も展開しています。

  • 「エコボランス®」使用(東洋紡提供)
  • 「バイオボランス®」(東洋紡提供)

また、スパンボンド不織布に特殊コーティングを行ったトノカバー用人工皮革「モデナ®」、「カテナ®」は、低VOCであるだけでなく、塩ビレザーと比べて1/2の重量であり、製品の軽量化・小型化に貢献しています。高機能商品として、極細繊維複合不織布の「サウンドブロック®」はこれらの特徴に加え、打ち抜き加工性にも優れており、吸音材や断熱材などに使われています。国連外部騒音規制やEV軽量化に対応し、国連外部騒音規制や走行時の快適性が求められる自動車吸音材の用途に対し、従来の1/2の厚みで同等の吸音性を有する特殊構造複合不織布「サウンドブロックネオTM」もラインアップしています。そのほか、帯電不織布「エリトロン®」も販売しています。低圧力損失、高いろ過性能を特徴とします。耐油性グレード、抗菌性グレードもあります。主に各種空気浄化フィルターに使用されており、自動車関連では、キャビンフィルターに活用されています。

  • 「カテナ®」使用のトノカバー(東洋紡提供)
  • 「エリトロン®」を使用したフィルター製品(東洋紡提供)

長い歴史を持つ素材を投入
~東レ「ウルトラスエード®」「プロミラン®」~

東レが販売しているスエード調人工皮革「ウルトラスエード®」は、過酷な環境に対応する優れた耐久性と高い通気性、耐候性などの機能面に加えて、上質感を求められる自動車内装用途にも使用されています。ソフトで滑らかな触り心地や上質な素材感が高く評価され、世界の主要自動車メーカーがシートやドア、ダッシュボードをはじめとするさまざまな部位に採用しています。この分野でも40年以上の実績を誇ります。植物由来原料やリサイクル原料を使用したラインナップを揃え、サステイナブル素材であることなどから、特に電気自動車(EV)といった環境対応車へ採用が広がるなど、プレミアムな価値を提供しています。東レのナイロン糸「プロミラン®」、その歴史は長く、1951年に日本で初めて東レが生産を開始して以来、多方面の自動車・産業資材用途に使用されています。今では日本とタイ、メキシコの世界3極で原糸を生産し、エアバッグをはじめとする自動車部品用途などに使用されています。特にエアバッグ用途では日本、タイ、中国、チェコ、インド、メキシコで生地の生産拠点を構築するなど、主要自動車生産地域での現地供給体制を確立しています。

超極細アクリルが音を吸収
~三菱ケミカル「XAI(サイ)®」~

三菱ケミカルが販売している「XAI(サイ)®」は、直径が約3マイクロメートルという超極細のアクリル繊維です。優れた吸音性能を持っているため、自動車や建築関連向けの吸音材として使用することができます。耐薬品性や耐熱性、比重などの基本物性は、一般的なアクリル繊維と同じで、他素材と混合することで吸音性能が高まります。ベースとなる吸音性能が高いので、材料の軽量化にもつながっています。

  • 断面比較(左:「XAI®」/右:汎用品) (三菱ケミカル提供)
  • 「人とくるまのテクノロジー展2019」への 「XAI®」出展の際の様子(三菱ケミカル提供)

(2022年2月掲載) 本文および写真・図(イラスト)の無断転載を禁じます。