日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/安全な機能
難燃・防炎

安心・安全のために使用される代表的な機能の一つに難燃・防炎素材があります。多くの繊維は可燃性ですが、ホテルや公共施設、住環境で使用されるカーテンやカーペット、作業現場や火災現場で着用される消防服や作業服といったユニフォームは、燃えにくい性質が求められます。
カーテン、カーペット、寝装品などリビング関連で活用することは火災のリスクを低減します。このため、将来的には介護・福祉分野での需要拡大も期待されています。ユニフォーム向けも労働者の労働環境改善が世界的に求められていることを理由に需要が伸びています。

頻繁に炎の脅威にさらされる現場だけでなく、わずかでも炎を扱う場合もこうした素材の作業服を着用することで事故のリスクを最小限に抑えようという、企業のコンプライアンス上の問題が高まっており、こうした素材の採用が増えているのです。

「難燃」と「防炎」の違い

「燃えにくい」性質を表す上で「難燃」と「防炎」という言葉が使われますが、両者には違いがあります。「難燃」は、原料である高分子そのものを合成反応の段階から燃えにくい性質にし、紡糸するもの。「防炎」は、それ自体燃えやすい可燃性・易燃性の繊維製品に、難燃剤を付着させる加工を指す場合が多く、主に綿やポリエステルなどを織物にしてから燃えにくくする場合に用いられます。「難燃繊維」「防炎加工」と言い分けます。
ただし、いずれも「不燃(燃えない)」ではないことに注意が必要です。

難燃繊維の製造工程

そもそも「燃える(燃焼)」とは、材料の熱分解によって発生した可燃性ガスと酸素が結合する化学反応です。
燃焼が始まると、熱で材料の分解が促進され燃焼が進行、つまり「燃える」わけです。
製造工程で繊維に難燃性を付与する基本原理は、材料の熱分解を抑えて分解ガスの発生を抑えること。もしくは、発生した分解ガスと酸素との接触を遮断することです。その技術は主に3つあります。

①ハロゲン系化合物による難燃繊維
繊維高分子の中に塩素やフッ素を含む化合物を共重合させる手法です。熱分解で発生したハロゲン系の不燃性ガスが酸素濃度を薄めるため、燃焼の進行を妨げます。

②リン系化合物による炭化促進
リン系化合物をポリマーに共重合させる手法です。炎に触れるとリンが発生し、酸化して脱水作用を持つ物質(五酸化リン)になります。繊維から水素と酸素を奪って繊維を炭化させ、その炭化物が繊維を覆います。同時にリンも空気を通さない物質(ポリリン酸)に変わり、同じく繊維を覆ってそれ以上の燃焼を防ぎます。

③繊維高分子の高耐熱化による熱分解の抑制
分子同士が強く結びあったものや架橋結合でネットワークを形成させた、芳香族系の剛直性の高い高分子を使います。熱分解が生じにくいため、可燃性ガスの発生を抑えるのです。

合成繊維に対する防炎加工

熱溶融性の合成繊維は比較的、燃えにくい性質を持っていますが、安心・安全がより強く求められる用途では更に燃えにくさが求められます。リンまたはハロゲン系の化合物を染色時に、染料と併用して吸着させる方法が一般的です。
生地に炎を近づけて燃え始めても、炎を遠ざけると、自ら炎を上げて燃え続けたり、余じんが残って広がり続けることが無いような処理になります。
その方法として、水溶液の防炎薬剤に繊維製品を浸し乾燥や熱処理を加える方法、防炎薬剤を分散させた合成樹脂を繊維製品の表面にコーティングするなどの方法がとられます。

脱ハロゲン系難燃剤へ

難燃機能を付与する成分として、高い機能を発揮できるハロゲン系化合物ですが、人体などへの高い蓄積性と分解のしにくさから「化学物質の審査及び製造棟の規制に関する法律」(化審法)の「第一種監視化学物質」(国に無断で製造・輸入できない)に指定されたことで、以下に紹介する各合繊メーカーの素材のように、脱ハロゲン系難燃剤の動きが進んでいます。

耐候性や吸湿性も
~クラレ「バイナール®」「ポリエーテルイミド(PEI)繊維」~

クラレは難燃ビニロン「バイナール®」「PEI繊維」といった難燃素材を展開しています。「バイナール®」は難燃機能を付与したビニロン繊維で、耐候性や吸湿性も持ちます。作業服、防火服などの衣料用途とともに、インテリア、資材などの産業資材にも使われ、安全性が求められる分野を幅広く開拓しています。

  • 「バイナール®の生地サンプル」
    (クラレ提供)

また、「PEI繊維」は熱可塑性エンプラ樹脂PEIを独自の紡糸技術により繊維化した新しい素材です。低発煙性、熱可塑性など樹脂由来の特性に加え、染色、細繊度かも可能なことから衣料、輸送機器、電気電子の分野など幅広い分野での展開を狙っています。

  • 「PEI繊維」
    (クラレ提供)

原糸・素材設計・加工技術で
~セーレン「モエニー®」~

セーレンの「モエニー®」はカーテン、寝具材、家具類に使われるポリエステル素材です。原糸、素材設計、加工技術の組み合わせからこうした多様な分野への展開が可能になっています。

伸度、弾性率などに特徴
~帝人「コーネックス®」~

帝人が展開しているのはメタ系アラミド繊維「コーネックス®」です。伸度、弾性率、比重、風合いなどでポリエステル並みの繊維性能を持ちながら、長期の耐熱性・難燃性に優れており、鉄鋼、セメント、アスファルトなどの産業用耐熱集塵フィルター、消防士が着用する防火服、各種プラント、サービスユニフォームなどに使用されています。

  • 「コーネックス®」
    (帝人提供)

消防法基準にも合格
~帝人フロンティア「スーパーエクスター®」~

帝人フロンティアは高いレベルを持つ難燃ポリエステルとして「スーパーエクスター®」を展開しています。インテリア、資材など、防炎性能が必要となる多くの用途に使用できるもので、消防法の厳しい基準にも合格しています。使用している防炎剤は、皮膚炎やアレルギーなどを起こしにくく、発がん性がないことを確認しています。

  • 「スーパーエクスター®の燃焼試験(着火60秒後)」
    (帝人提供)
  • 「PLIFF™」燃焼シミュレーションによる火傷評価が可能な燃焼マネキンシステム
    (帝人提供)

改質ポリエステル繊維
~東レ「アンフラ®」~

東レの「アンフラ®」は改質ポリエステル繊維です。非ハロゲン難燃成分を添加することで、改質しています。生地を燃やしても燃え広がりにくく、すぐに溶け落ちて周囲に燃え広がるのを抑える効果がある長繊維です。カーテンやカーシートに使われています。

寸法安定性に優れたポリエステル長繊維不織布
~東洋紡「ハイム®」~

東洋紡の「ハイム®」は燃えにくく、燃え広がりにくいポリエステル長繊維不織布です。耐熱性、耐候性、耐水性、耐油性、耐薬品性に優れるほか、引っ張りや引き裂きに対する強さも備えており、燃焼させても有毒ガスが発生しません。カーテンなどのインテリア素材としてだけでなく、建築や自動車内装材などにも使われています。

  • 「ハイム®の燃焼試験」
    (東洋紡提供)

自己消火性で安全
~ユニチカトレーディング「プロテクサ®FR」「ホノガード®」~

ユニチカトレーディングは、難燃性ビニロンと綿の複合素材である「プロテクサ®FR」、難燃性ポリエステル素材「ホノガード®」を保有します。
プロテクサFRは、自己消火に優れる素材です。炎に近接しても溶融せずに炭化するため、着用者の安全を守ることができます。また、酸やアルカリなどの飛散に対して耐久性があることも特徴です。防汚性にも優れており、コットンに近い給水・吸湿性で暑い季節でも快適性を得ることができます。
一方、「ホノガード®」は複数の化合物が結合反応を起こす際に、特殊なリン化合物を配置するリン系共重合ポリエステルです。自己消火性があり燃えにくく、燃え広がりません。また、ハロゲンやシアンなど有毒ガスが発生せず、洗濯による性能劣化がないという特徴もあります。

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