日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/特殊な機能
ウール調素材

天然繊維と聞くと、おそらく多くの人がまずコットン(綿)を思い浮かべるのではないでしょうか。コットン素材は柔らかく、肌触りが良いのが特徴です。肌着や靴下、アウターなどの衣料品はもちろん、ミシン糸をはじめとする資材分野にも使われるなど、本当に幅広い用途で用いられています。そのほかでは、ウール(羊の毛)やシルク、麻も天然繊維です。この中でウールとシルクは動物繊維に数えられます。

すごい繊維のウールにも問題が

ウールは皆さんも良く知っている羊の毛です。羊は世界中のさまざまなところで、古くから飼育されています が、現在はオーストラリアやニュージーランドが有名ですね。昔のニュージーランドでは、国民1人当たりに20 頭の羊がいたそうですよ。

ウールは「ウールの七不思議」と言われるぐらい多くの機能を持っています。七不思議とは、①水をはじき、湿気を吸収する、②冬は暖かいのに夏は涼しい、③型崩れしにくい、④燃えにくい、⑤染めやすい、⑥汚れにくい、⑦フェルト化する――です。燃えにくいという特徴から、航空機の毛布と言えばウールだった時代もあります。

すごい繊維なのですが、現在ではいろいろな問題点がクローズアップされています。その一つがミュールジングです。うじ虫の寄生を防ぐため、子羊のお尻の皮膚と肉を切り取ることで、「残酷だ」という指摘があります。

ウールを超えた化学繊維

そうした中で注目を集めているのが、ウール調素材です。ウールの価格が高止まりしていることもウール調素材には追い風になっています。化学繊維メーカーが開発・展開するウール調素材にはさまざまなものがあります。大きくは梳毛(長いウールを使った糸)調、紡毛(短いウールを使った糸)調に分かれますが、見た目は本当にウールと変わらず、手触りも肉厚で、簡単には本物のウールなのか、ウール調素材なのか区別がつかないほどです。

単純に「ウール調」素材、「ウールライク」素材と呼ばれることもあるのですが、中には「ウールを越えている」と表現する人もいます。多様な機能や表面感を付与できることがその理由です。これから数年後には、ウール調素材の新しい呼び方ができているかもしれませんね。

今回は活躍する化学繊維ではウール調素材を紹介します。

膨らみ感や透湿防水性などを付与
~セーレングループ(KBセーレン)「ベルアイビー®」など~

セーレングループのKBセーレンは「ベルアイビー®」をはじめとする梳毛調素材を展開しています。「ベルアイビー®」は、複合加工糸使いの織編物で、多層かさ高性、肉厚感、梳毛調などが特徴です。異収縮混繊糸使いの織編物「モス®」は、立体的な表面構造(潜在的特殊ループ構造)によって豊かな膨らみを表現しています。「ピーチスキン®」は極細分割型複合繊維を使った高収縮高密度の起毛素材です。透湿防水機能のほか、ソフトで桃の表面を思わせる繊細な立毛が特徴になります。

ウールの長所を再現しながらポリエステルの特徴も
~帝人フロンティア「トリクシオン®」など~

帝人フロンティアが展開している「トリクシオン®」は、ウールの長所を再現しながら、ポリエステルの長所も生かしています。優しいタッチの風合い、自然な外観、ストレッチ機能による動きやすさ、美しい仕立て映えを兼ね備えています。ポリトリメチレン・テレフタレート(PTT)繊維「ソロテックス®」でもウール調素材が多数ラインアップされています。ソロテックス®とポリエステル長繊維を独自の高次かさ高混繊技術で混繊させることで、ウールのような外観、風合い、かさ高感、優れたイージーケア性を付与した革新的紡毛調素材が「ソロテックス® フルフラン®」です。このソロテックス® フルフラン®の複雑な多杢表現やウールの質感、外観、風合いをさらに進化させたのが「ソロテックス® フルフラン® センツァラーニ」です。天然素材では実現が難しい緻密な発色性、撥水や防汚などの機能を付与できる「ソロテックス® ミナージュ」もラインアップしています。

  • 「ソロテックス® ミナージュ®」断面(帝人フロンティア提供)

シェットランド羊毛のように
~東洋紡グループ(日本エクスラン工業)「NB®」~

東洋紡グループの日本エクスラン工業は、アクリルの「NB®」を販売しています。しっかりとしたクリンプ形態が特徴のコンジュゲートファイバーです。羊にはいろいろな種類がありますが、寒い北欧には「シェットランド」という種類の羊がいます。NB®はこのシェットランド系羊毛のようにバルキー性に富み、しっかりとした風合いが表現できます。セーターや手編み糸が主な用途です。

ウールの特性とポリエステルの特徴をミックス
~東レ「ルミレット®」ウール混タイプなど~

東レが販売する「ルミレット®」ウール混タイプは、ウールそのものが持つ優れた膨らみや反発感、ウオーム感を損なうことなく、ポリエステルの特徴であるイージーケア性と後加工のセット性を実現したウール混紡素材です。ソフトな風合いと機能性を併せ持っており、ダウンジャケットやスーツ、スカートなどの幅広い用途に採用されています。「NTS(エヌティーエス)®」は濃淡色調の繊細で上品な深い色味が特徴の杢感素材です。防シワ性や速乾性、ウオッシャブル性などの機能を付与することができます。適度な膨らみと反発感を持っているため、ダウンジャケットやセットアップスーツなどの用途で使われています。

極細アクリルで梳毛紡績を可能に
~三菱ケミカル「フェーデ®X」~

三菱ケミカルの「フェーデ®X」はアクリル原綿です。天然繊維のように均一な繊維径ではない極細アクリル繊維を、独自の方法で生み出すことで、これまでは難しいとされていた極細繊維での梳毛紡績を可能にしています。

  • 「フェーデ®X」の繊度分布(三菱ケミカル提供)

「エレコフ®」はトリアセテート繊維複合の梳毛ウール調特殊加工糸です。無地表現に合わせフィラメント糸のみの構成でありながら、先染め混紡糸のような繊細なトップ杢表現を後染めで実現した素材です。イージーケア性やストレッチ性等の機能を備えており、トリアセテートならではの艶感ときしみ感が共存している点も特徴です。レディース向けのシーズンレスなセットアップ素材、またメンズ向け用途でも展開しています。

  • 「エレコフ®」(三菱ケミカル提供)

ウールの持つ独特の美しさを表現
~ユニチカトレーディング「エスウール®」など~

ユニチカトレーディングが販売している「エスウール®」は、トップ染めのウール生地独特の杢感と風合いを追求したポリエステルフィラメント梳毛調素材。深みのある異色効果と膨らみ感、反撥感、軽さが特徴です。オールシーズンに対応したスーツの展開が期待されているほか、ユニフォームも主な用途になります。シンセティックネイチャー(W)は、ウールが持つ美しい杢調やエレガントな風合いを表現したポリエステルフィラメント素材。合成繊維機能である形態安定性や速乾性なども併せ持ちます。カジュアルやアウトドア、ユニフォーム、レディースなど幅広く展開しています。

  • 「エスウール®」(ユニチカ提供)

(2019年8月掲載) 本文および写真・図(イラスト)の無断転載を禁じます。