厳しい冬場に暖房温度を低く抑えても暖かく過ごせる衣料品は、化学繊維の機能性が最も生かせる分野の一つです。化学繊維は、繊維の特性や糸の形状を自由に変えるなどさまざまな工夫が可能なため、生地を分厚くしなくても暖かくて快適な糸・生地を作ることが可能なためです。特に軽くて暖かい保温素材は、機能性肌着を中心に人気を集めていますが、最近では肌着やタイツなどのインナーだけでなく、一般のアウター(婦人服や紳士服など)、寝装品といった領域にも展開の幅を広げています。
保温素材の代表的な手法の一つには、生地内に多くの空気をため込み、暖まった空気を外に逃がさないというものがあります。空気は熱伝導率が低いため、技術を駆使して衣服内により多くの暖かい空気層を作るようにすれば、その分だけ保温力を上げることができるようになるのです。
繊維の中により多くの空気層を作るためにさまざまな技術が用いられていますが、その一つが東レの中空ナイロン「ファリーロ」や帝人フロンティアの中空ポリエステル「エアロカプセル」などのように、糸の内部を空洞にする中空糸です。中空糸は繊維の空洞部分に空気をため込むことができるだけでなく、内部が空洞になっている分だけ軽くなります。このため「暖かさ」と「軽さ」という二つの快適性を兼ね備えることが可能です。
- 中空ナイロン「ファリーロ」
(東レ)
- 中空ポリエステル「エアロカプセル」
(帝人フロンティア)
旭化成はキュプラ繊維「ベンベルグ」と機能ポリエステルを組み合わせた「モイステックスHOT」を展開しています。「ベンベルグ」が持つ吸湿発熱機能に加えて、生地を多層化して多くの空気層を作ることで高い保温性を実現します。
- 「ウインドバリア」と従来品の表面拡大写真比較
(帝人提供)
ニットは伸縮性があって動きやすい素材ですが、厳しい冬には編み目から風が入りやすいという悩みもありました。この点を解消するため、特殊な糸を高密度に編んで通気性を低くした素材が防風ニットです。例えば帝人フロンティアの「ウインドバリア」は、20%以上の捲縮率を持つ特殊原糸と特殊な編み方で通気性を大幅に低減しています。
また、東レの防風吸水速乾素材「ウルトラシェル」はハイゲージで編むことで高い防風性を持ち、柔らかく軽量性に富んだニット素材です。
衣料用途だけでなく、室内空間を快適にする素材も開発されています。クラレの特殊不織布「フレクスター」を使った障子シートは、断熱・遮熱性に優れているため、室内保温や窓付近の冷気遮断に効果があります。透光性にも優れていることから、一般的な障子紙と同じように、室内には柔らかい光が広がります。不織布には多様な製造方法があるのですが、このフレクスターは、スチームジェットによる蒸気の熱と噴流を利用する特殊な製法で、通気性、断熱性、伸縮性などさまざまな特長を持った不織布を作り出すことができます。
- 「フレクスター」を使った障子シート
(クラレ)
障子シートの断面拡大写真と効果
(クラレ)
東レは高い吸水速乾性能を持つ「フィールドセンサー」シリーズの秋冬用として、起毛タイプの「フィールドセンサーTM」を展開しています。このタイプの素材には生地を張り合わせたものが多いのですが、「フィールドセンサーTM」は一枚の生地の肌側のみを起毛させていますので、保温性を高めるとともに、より軽い素材に仕上げることができます。
- 「フィールドセンサー®」の多層構造図
(東レ提供)
- 太さの異なる糸を2層3層に組み合わせた多層構造の毛細管現象で、汗を多量に吸収、一方向に移動・拡散させ乾燥させます。
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