便利な繊維／身近で活躍する機能
メディカルウエア向け素材

皆さん、病院に行った時、医師や看護師がどのような服を着ているか意識して見たことはありますか。白いガウンのような服（白衣）を着ている先生が思い浮かびましたか。最近はスクラブと呼ばれる半袖で首元がVネックになっている医療用白衣もあり、頑丈な糸・生地が使用されているため、強く洗っても生地が傷みにくいのが特徴で、カラーバリエーションも豊富です。

今ではさまざまな色のウエアを見ることができますが、それでも医師や看護師が着ている服はやっぱり白色が多い気がします。一説には紀元前のインドで医師は清潔であることを義務付けられ、その一環として白い衣をまとうことになっていたそうです。

医療現場で使用されているウエアは色だけでなく、さまざまな工夫が施されています。病気を治す医師や看護師に病気がうつらないようにするためです。工夫の一つが制菌加工です。簡単に言うと、繊維などに付着してしまった菌の増殖を防ぐものです。1990年代に登場したと言われています。制菌加工は抗生物質が効かない、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌による病院内での感染が問題になったのが開発のきっかけでした。チシリン耐性黄色ブドウ球菌のほか、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、緑膿菌、大腸菌などが病院向けの対応菌種です。

抗菌という加工もあります。実は繊維の抗菌加工の歴史はすごく古いのです。原点は約4000年前の古代エジプトのミイラにさかのぼります。ミイラを包む布を保護するために特殊な薬草を用いて抗菌防カビ加工を施したという説があります。そのほか、病院用白衣には吸汗速乾や透け防止、消臭など多種多様な機能が付与されています。医師や看護師の着用快適性を考えてのことです。それを可能にしているのが化学繊維です。機能はどんどん進化しており、新しい素材もどんどん出ています。安心・安全性も高まっています。

今回の活躍する化学繊維では、メディカルウエア向け素材を紹介します。

旭化成はガウンやマスク、ガーゼなどに使われている素材をラインアップしています。「エルタス®」は世界で唯一、ナイロン・ポリエステル・ポリプロピレンの3種類を原料とし、フィラメントを均一に分散させたウェブを熱圧着により接合した、ノーバインダーでピュアなスパンボンド不織布です。メディカル分野ではガウンやマスクなどで使われています。「エコライズ™」は主にポリ乳酸（ＰＬＡ）で作られている不織布です。特定の条件で生分解・堆肥化が可能なため環境に優しいのが特徴です。プレス熱成型によって多様な形状を作ることができるグレードもラインアップされています。メディカル用途では使い捨てマスクの一部材として使用されています。「ベンリーゼ®」はキュプラ連続長繊維不織布で、世界で唯一の素材です。ピュアリティーが高い、拭き取り性が高い、発塵性が低いと言った特徴を持っているので、医療用のガーゼをはじめ、ウエットワイパーなど幅広い用途で活躍しています。

• 「エルタス®」（旭化成提供）

• 「エコライズ™」成型品（旭化成提供）
• 「ベンリーゼ®」（旭化成提供）

クラレグループのクラレトレーディングは、メディカルウエア向け素材で注目される機能として制菌や抗ウイルス性などを挙げています。同時に家庭にある洗濯機では落ちない汚れを落とす商業洗濯に耐える機能性加工・素材の提案を課題としています。そんな同社が展開しているのが「サニター®ＥＸ」です。「抗菌防臭加工」「制菌加工（一般用途）」「制菌加工（特定用途）」に対応した加工です。商業洗濯50回後でも効果が持続し、耐久性に優れています。

セーレンは、「ファブレッシュ®」「ファブレッシュアロマ®」を販売しています。「ファブレッシュ®」は安全性が高く、アンモニアなどの汗の臭いを素早く消し去る消臭素材です。「ファブレッシュアロマ®」は消臭芳香素材です。柑橘系の芳香性を持ちながら、アンモニアなどの汗の臭いを素早く消し去ります。グループ会社であるＫＢセーレンも多様な素材をラインアップしています。繊維に練り込んだ特殊剤が赤外線を吸収することで赤外線の透過を防止し、赤外線線カメラでの透撮を困難にするのが「イオヴェール®」です。透け防止性と遮光性、ＵＶカット効果のあるポリエステルフィラメントが「イマージュ®」で、その「イマージュ®」を使ったポリエステル織・編み物が「ホワイエ®」です。紫外線や赤外線を遮蔽するため、ＵＶカットや透け防止などの効果を持っています。

帝人グループの帝人フロンティアは多くの素材をメディカルウエア用途で展開しています。「イクスマック®」は特殊ポリエステルを使用することで軽量性と高防透性の両立を実現した素材です。「カルキュロ®」は、吸汗速乾、ソフトな風合い、ストレッチ性を備えているため、着用快適性に優れています。ユニフォーム向けのニット素材が「コンフェスト®」です。寸法変化を抑えながら着用快適性、防透性などの機能を併せ持っています。商業洗濯やタンブラー乾燥に対応します。「バリュー®」シリーズは繊維上の菌の増殖を抑制する制菌加工素材です、抗ウイルス加工を追加した、「バリュー®V」「バリュー®W」「バリュー®X」がラインナップに加わりました。汗をかいた時の不快な臭いの原因となる繊維上の菌の増殖を抑制して防臭効果を発揮するのが「ケミタック®」シリーズです。ニーズに即した抗ウイルス加工を追加した「ケミタック®V」「ケミタック®W」も展開中です。

東洋紡は、素材や事業部毎に個別に企画販売してきた抗ウイルス加工技術に関し、「ヴァイアブロック®」の冠ブランド下で総合的なプロモーション活動を開始しています。抗ウイルス素材繊維「ヴァイアブロック®」、SEK登録汎用加工「ナノバリア®」、長期耐久性を有する「エアリア®」を主力として、それぞれの特長を生かした開発や企画を全社的に提案しています。特に、スパンボンド事業部が最近販売を開始した「エアリア®」では、抗菌・抗ウイルス性ポリマーを特殊コーティングしたポリエステル不織布を土木・建築を含めた幅広い用途で展開しています。「エアリア®」は、抗菌性、防藻性、高レベルのウイルス除去性能に加え、屋外でも1年以上性能が持続する耐久性、耐候性を有し、安全かつ安価な材料で低コスト化にも貢献します。「エアリア®」の技術は不織布以外にも、すべての繊維素材に適応可能です。

東洋紡グループの東洋紡ＳＴＣは、制菌素材や消臭加工などの高機能素材を幾つもメディカルウエア用途に提供しています。「エピコモド®」は病院内で使用される繊維製品上のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の増殖を抑制する制菌素材です。高い洗濯耐久性を持ち、白衣や寝具側地、カーテン、カーペット、マット、壁材、ミシン糸、フィルター、中わたなどに使われています。医療機関やそれに準じる施設で使用される繊維製品として展開しています。「ＳＥＫ」抗ウイルス加工の認証を取得した加工が「ナノバリアー®」です。繊維上の特定ウイルスを減少させ、従来の「ＳＥＫ」赤、橙の制菌加工との併用も可能です。メディカルウエアや寝装、マスクなどで使われています。「タフデオ®Ｚ」は商業洗濯（ＳＥＫ高温洗濯50洗）対応の高耐久消臭加工で、ＳＥＫ」赤、橙の制菌加工と併用できます。吸水性を損なわないので、着用快適性にも優れた加工です。「オールフレックス®」は高捲縮（けんしゅく）ポリエステル糸とファブリケーション技術により作られたストレッチ素材です。環境に配慮したペットボトル再生糸のほか、フルダル糸による防透素材もあります。メディカル用スパンレース不織布「エクスガード®」は抗菌性・低発塵性が特徴で、現在はドレープ用途で展開しています。

• 「エアリア®」シートの抗菌性試験（東洋紡提供）

• 「ナノバリアー®」（東洋紡提供）

東レはハーフトップの「ハグフィット®」を販売しています。これはがん研究会有明病院の医師と看護師、そして東レが乳がん患者のことを考えて開発しました。極細ナイロン糸と伸縮性のある繊維の複合糸を使用した生地「マイクロテンダー®」がバストを包み込むように優しくフィットします。防汚加工を施した生地「テクノクリーン®」で皮膚炎治療用の軟こうや患部からの浸出液が表面に染み出しにくく、洗濯で汚れが落ちやすくなっています。肌への刺激を抑制した縫製や開閉のしやすいスナップボタンをはじめとする仕様にもこだわるなど、「少しでも笑顔で快適に」という思いが詰まった製品です。

ユニチカグループのユニチカトレーディングは、ユニチカの不織布「エルベス®」と特殊フィルムの複合品である「ユニソフィア®」を開発しました。これはディスポーザル（使い捨て）の素材です。快適性の指標となる「透湿性能」と血液バリア、ウイルスバリアの指標であるＡＡＭＩ／ＰＢの最高ランクレベル４をクリアしています。医療現場からの要望に応えるため、高透湿タイプも追加でラインアップしており、医療現場での感染症対策や救急救命士たちの感染防止衣など、幅広い用途を想定しています。この「ユニソフィア®」を中心に感染症対策強化品や暑さ対策品など、医療現場のニーズに対応した素材を準備していきます。

※ＡＡＭＩ／ＰＢ：アメリカ医療機器振興協会（Association for Advancement of Medical Instrumentation, AAMI）が定めた、医療用ガウン類を防護性能によって分類する規格

（2022年2月掲載）　本文および写真・図（イラスト）の無断転載を禁じます。