日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/安全な機能
制電

冬場になると起こる静電気によって、埃が付いたり、衣服がまとわりついたりすることがよくあります。これを低減して快適性を高める機能繊維が制電素材です。親水性のポリマーを用いて帯電を防止する帯電機能繊維がインナー、スーツの裏地、コート、寝装具などに広く使われています。
製造現場で着用される作業着(ワーキングウェア)も重要な用途です。たとえば、塵や埃が厳しく禁じられる場所では、一般衣料向けよりさらに高い制電機能が要求されます。具体的に言うと、石油化学工場や医薬品工業、精密電子工業の現場です。石油化学工場では、静電気による火災が大事故につながり兼ねませんし、医薬品工業や精密電子工業においても放電や衣服に付着した埃が不具合の原因になります。これらを防止するためには、より優れた制電性を備えた材料を使った作業服が必需品で、より機能の高い「導電性繊維」という素材が開発・採用されています。

静電気発生の仕組み、なぜ冬場に静電気を感じるのか?

そもそも、静電気は異なる物質を触ったり、摩擦したりすることで発生します。摩擦熱が発生して両者の間で電子の移動が生まれ、電荷のバランスが崩れることで生じるのです。ただ、この静電気は天然繊維では起こりにくくなります。天然繊維は水分を豊富に含むので、発生した電気は水中を伝わって拡散し、空気中の水分などへ逃げて行くからです。夏に静電気を感じにくいのも、この時期の空気中には水分が多いからという理由があります。
多くの制電性繊維は、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの疎水性合成繊維の内部に親水性のポリマーを練り込んであります。静電気の低減には水分を含むことがポイントになるので、空気中の水分を吸収し、その水分を通じて電気を拡散させる機能を持っているのです。
一方、導電性繊維は金属、カーボン、導電性セラミックなどの微粒子を芯鞘繊維の芯部に配合した繊維が主流です。導電性物質を通じて電子が移動し、衣服の広い表面から空中へ、ごく微かな放電によって電荷を消滅させる仕組みです。水分が関係しないので、湿度の影響を受けることはほとんどありません。このため、エレクトロニクス工業、精密機器、医薬品工業での防塵衣や化学プラントなどの石油化学工場での防爆衣服に使うことができるのです。また、スマートフォンなどの電子端末を操作できる手袋も急速に一般化してきましたが、指先には導電性繊維が使われています。電気を通しやすい導電性繊維の特徴を生かしているのです。

帯電防止加工

加工により静電気を強制的に減衰させる処理もあります。合成繊維は、染色後には帯電防止剤をはじめ紡糸油剤が除去され、摩擦帯電しやすい状態になっています。生地を裁断、縫製、着用するときの、帯電を原因とする不具合を最小限に抑えるため、最終仕上げ加工に帯電防止剤が欠かせません。
帯電防止剤には、それ自体の電導性により静電気の発生を防いで摩擦で生まれた静電気を帯電防止剤の親水基に吸着する水分により分散させる作用があります。一時的な処理をするものと半永久的な処理をするものの2通りがあります。

高機能衣料や精密機械分野に展開
~クラレ「クラカーボ®」

導電性カーボンを練り込んだ樹脂を用いて複合紡糸した、特殊断面構造の導電性繊維です。性能・耐久性に優れた導電性繊維として、静電気防止に高い性能を発揮します。用途に合わせ多様な断面構造、色合い、導電性能を選択できることも特徴で、クリーンルームウェアーや安全防護衣等の高機能衣料用途、複合コピー機や自動搬送ベルト等の精密機械へ販売展開しています。

  • 「クラカーボ®」断面
    (クラレ提供)

通気性と防塵性を両立し先端技術分野に
~セーレン「プリータ®」~

セーレンの制電防塵素材「プリータ®」は、制電性、フィルター性と通気性を両立し、柔らかな風合い、耐摩耗性と洗濯耐久性などの特徴を持ちます。クリーンルーム用ウェアや塗装服などに使われています。経糸・緯糸にポリエステル長繊維を使用し、静電気対策としてKBセーレンの導電糸「ベルトロン®」を4.5mm間隔で配置しています。「ベルトロン®」は糸自体に制電性をもたせており、高い機能性と耐洗濯性などの特徴があります。この糸を使うとともに、織、仕上げ加工と各段階で独自の技術を駆使することにより、高水準で防塵性、制電性、通気性を兼ね備える形にしました。

  • 「プリータ®」
    (セーレン提供)

制電性と発色性を兼備
~帝人フロンティア「ラピア®」~

帝人フロンティアのポリエステル素材「ラピア®」は制電剤を練り込んでいるため、洗濯を繰り返しても優れた制電性を発揮します。また、異型断面(三角形)糸タイプは優れた発色性を持つのも特徴で、裏地やインナーに使われています。

  • 「ラピア®」断面
    (帝人提供)

アクリルで制電素材
~日本エクスラン〈東洋紡グループ〉「ノエール®」「ミリアーノ®」

「ノエール®」はアクリル100%素材ながら、特殊な制電ポリマーを練り込んで制電性を持っています。洗濯耐久性に優れていることが特徴で、インナーからアウターまで衣料全般、毛布など寝装品にも採用されています。また、ウールとの複合素材「ミリアーノ®」も展開しています。抗ピリング性能にも優れた恒久的な制電機能を持つ快適な紡績糸で、家庭選択でも寸法変化がなく、イージーケア性にも優れています。セーター、ジャージなどに使われています。

導電性微粒子や制電性ポリマーを使用
~東レ「ルアナ®」「パレル®」など

東レが展開するポリエステル素材「ルアナ®」は繊維内部に導電性微粒子(カーボンブラック)を筋状に配列し、発生した静電気をすぐに放電し、衣服や人体への帯電を軽減させる素材で、JIS規格にも適合します。同じくポリエステル素材の「パレル®」は繊維の芯部に制電性ポリマーを閉じ込めた素材で、帯電を軽減する繊維です。合成繊維の静電気帯電性が高いというデメリットを軽減し、軽くて強く、美しく、発塵も少ないというメリットによって多方面で活用されています。

総合的な制電性能を発揮
~ユニチカトレーディング「エレクガード®」など~

ユニチカトレーディングの制電素材「エレクガード®」は耐久性に非常に優れた帯電防止加工です。導電性カーボン練り込み糸「メガーナ®」と「エレクガード®」を組み合わせることにより、帯電電荷量・摩擦耐電圧など総合的な制電性能を加えることが可能になりました。ユニチカトレーディングはこのほか、導電性繊維「メガーナ®」をシリーズで展開するほか、制電機能だけでなく、吸水、防汚機能も発揮する加工「デュアルプラス®EM」も対応しています。低温プラズマ加工技術によってナノスケールで繊維を改質し、ポリエステルに耐久性あに優れた吸水・制電・防汚機能を付与します。

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