日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/特殊な機能
レッグウエア用複合機能

加工剤、生地構造の工夫で汚れから守る快適衣料

レッグウエアにはストッキング、ソックス、タイツなどがありますが、この分野でも化学繊維が多く使われています。消臭や抗菌防臭、吸水速乾、保温、伸縮性などレッグウエアに求められる機能は幅広く、日本の化学繊維メーカーもさまざまな特徴ある機能性素材を打ち出しています。

ストッキングは、開発当初はナイロン100%でしたが、伸縮性を高めてはき心地を良くするためにポリウレタン弾性繊維(PU)が使われるようになりました。主にはPUを芯糸にしてナイロンを巻き付け、耐摩耗性やしなやかさなどナイロンの良さとPUの良さを両立させる形で使われます。この加工糸はサポート糸とも呼ばれ、サポート糸にはPUにナイロンを1本巻いたシングル・カバード・ヤーン(SCY)、2本巻いたダブル・カバード・ヤーン(DCY)があります。ストッキングにはサポート糸とナイロンを交互に編むタイプや、全てサポート糸で編んだタイプ(ゾッキ)などがあります。

近年はストッキングで使われる素材も進化を遂げています。特に日本の化学繊維メーカーは機能性素材の開発力に定評があり、消費者のさまざまな悩みを解決する商品が登場しています。例えば、ナイロンでは極細化や吸放湿性の付与で快適性を高めた商品が出ており、PUもソフトな伸縮性を持つタイプや伝線防止に役立つタイプ、消臭タイプなどさまざまな機能糸が開発されています。

また、靴下についてもシルクや毛、綿などの天然繊維だけでなく、ポリエステルやアクリル、ナイロンといった合成繊維も多く使われています。ファッションに合わせてはく商品や通勤用、スポーツ用など、ソックスもさまざまなシーンで使い分けられますので、素材もそれぞれのニーズに応じて抗菌防臭、消臭、保温、吸湿、速乾をはじめとする多様な機能性商品が開発されています。

世界最細繊度級のナイロン繊維
~東レ「ミラコスモ スルーエ」~

東レはレッグウエア用の機能性ナイロンを幅広く展開しています。ナイロンはしなやかな触感を持つだけでなく、耐摩耗性にも優れていますが、さらに機能性を付与して着用快適性を高めています。「ミラコスモ スルーエ」は高強力、透明度、発色性に優れる「ミラコスモ」のポリマーを使用した総繊度が6デシテックス以下の細さを持つハイマルチ糸です。6デシテックス以下という総繊度は世界最細級で、これによって高い透明性を実現しています。また、単糸の太さは、高い強度を兼ね備える形で1.2デシテックスという細さで、滑らかな肌触りも生み出しています。ストッキング以外では、ランジェリー、インナー、アウターなどに使われています。

桜のような断面を持つナイロン
~クラレトレーディング~

クラレグループのクラレトレーディングは桜の花のような断面を持つナイロンを、レッグウエアやインナー、スポーツなどの用途で展開しています。この断面形状により、さらっとした肌触りなどの特長を有します。製造工程では易溶解性(80℃×10分)や生分解性などの特徴を持つ酢酸ビニル系水溶性樹脂「エクセバール」を使います。染色工程でエクセバールを溶かしてナイロンだけを残し、約7.5ミクロンの花びら5枚からなる桜の花のような断面を創り出しています。糸側面にあるシャープな溝による毛細管現象で吸水拡散性が向上するとともに、通常のナイロンよりも肌への接触面積が近くなるため、さらっとした風合いを実現しています。

伝線防止に役立つ合着タイプ
~旭化成「ロイカ」~

旭化成は、ポリウレタン弾性繊維「ロイカ」で、多くの機能糸をそろえています。その一つが熱合着タイプの「ロイカSF」です。ロイカの伸縮回復性や耐熱性などを維持しながら熱合着性を持たせた商品になります。この機能は生地加工時の熱により、糸同士が食い込むような形で変化・絡み合うものであるため、ストッキングが伝線しにくくなるといった効果が得られます。ストッキングに穴が開いてしまうと、切れた糸の上下から糸が抜けてさらに穴が広がるのですが、ロイカSFをつかった編み地は交接点の糸が絡み合っているため、糸がループから抜けにくくなります。生地をカットした際の糸のほつれを防ぐこともでき、幅広い用途で使われています。

ナイロンとPUを一体にした複合繊維
~KBセーレン「シデリア」~

セーレングループのKBセーレンは、ナイロンとポリウレタンの複合繊維「シデリア」を展開しています。独自のコンジュゲート技術により開発した商品で、熱処理をすると均一なスパイラル捲縮が得られ、適度な伸縮性や奇麗な編み面が表現できるといった特長があります。ナイロンとPUが一体になっているので、通常のカバーリング糸では難しい薄さと透明感を出すことが可能になります。ソフトなフィット感で夏場の暑さによる蒸れが軽減できることも特長の一つです。

ナノサイズの細さで機能性を付与
~帝人「ナノフロント」~

帝人の「ナノフロント」は、繊維1本の直径が700ナノメートルの超極細ポリエステル繊維です。700ナノメートルは人の髪の毛の7500分の1という細さになります。この「ナノフロント」を用いた生地は、表面積が通常の生地と比べて数十倍に高まるほか、吸水性、防透性などさまざまな機能を発現します。ナノサイズの凹凸が生み出す高い摩擦力も特長の一つで、ソックスの底面に使うとシューズ内での滑り・擦れを防止することができ、まめや靴擦れの軽減につながります。この摩擦力を生かした物では、ほどけにくい靴ひもや雨の日でも滑りにくいゴルフ用グローブなどさまざまなアイテムで生かされています。優れた吸湿性により、シューズ内の蒸れを防ぐなど快適性にも優れています。

  • 「ナノフロント」(繊維径700ナノメートル)
  • 髪の毛(繊維径60マイクロメートル)

ナノファイバーの断面積比較(帝人提供)

  • ナノファイバー断面
    (帝人提供)
  • ナノファイバーを使用した靴下
    (帝人提供)

綿の7倍の吸湿性を持つアクリレート繊維
~東洋紡「モイスケア」~

東洋紡の「モイスケア」は、高い吸放湿性を持つアクリレート系繊維で、消臭性や抗カビ性などの機能も併せ持っています。アクリレート系繊維はアクリルを改質して分子を超親水化、高架橋化した素材で、モイスケアは特に高い吸放湿性を実現しています。分子に親水基を多く持たせているので、吸湿性は綿、ナイロンの7倍という高い数値を実現しています。この吸湿性能の高さは吸湿発熱性の高さにもつながりますので、タイツなどのレッグウエアはもちろん、冬の防寒アイテム全般にも適しています。アンモニアなどに対する消臭性能や抗カビ性などの機能性も有しています。

  • 「モイスケア」の吸湿発熱メカニズム
    (東洋紡提供)
  • 「モイスケア」の吸湿率
    (東洋紡提供)
  • 「モイスケア」の吸着熱
    (東洋紡提供)

抗菌防臭、制菌機能を持つアクリル繊維
~三菱ケミカル~

三菱ケミカルは、機能性を付与したアクリル繊維を拡充する中で、抗菌防臭や消臭機能を持たせた商品も展開しています。「ニューターフェルパークリン」は、アクリル繊維に天然抗菌剤「キトサン」を練り込むことで、繊維状の最近の増殖を抑え、不快な臭いを防止する素材。アクリル繊維に銀をベースにした抗菌剤が練り込まれた「ボンネルAG」は、高い制菌性能を持ち、靴下などで展開しています。銀は酸化力が高く、細菌のタンパク質を変化させて壊し、細菌の活性化や分裂増加を防ぐという仕組みです。部屋干しの時の嫌な臭いの原因となるモラクセラ菌に対しても効果があるので、部屋干し対応商品としても展開しています。

内側のナイロンで耐久性などを向上
~ユニチカトレーディング「パルパーMV」~

ユニチカグループのユニチカトレーディングが展開する特殊複重層糸「パルパー」は、40年を超えるロングセラー商品です。糸の芯部と外側の素材を変えることでさまざまな特長を出す商品で、芯部がポリエステルで外側が綿など多様なバリエーションがあります。レッグウエアなどで使われている「パルパーMV」は糸の芯部分にナイロン、外側にアクリル・ウールを使ったタイプで、アウトドアソックスなどにも使われています。肌に触れる側はアクリル・ウールにして高い保温性を実現しながら、芯部にナイロンを使うことで耐摩耗性や吸放湿性などを高めています。

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