日本化学繊維協会と炭素繊維協会は
2014年7月1日に統合しました

便利な繊維/特殊な機能
吸音材・クッション材

日本には一体どれほどの自動車が保有されているのか知っていますか。国土交通省の統計によると、軽自動車やトラック、バスを含めて約7800万台にもなるそうです。ものすごい台数ですが、全世界では十数億台の車が保有されています。ナンバーワンは自動車大国のアメリカで、中国がそれに続いています。

乗り心地の良さは素材が左右

皆さんも旅行や買い物、通学などで何度も自動車(バスなどを含む)に乗った経験があると思いますが、乗り心地はどうですか。車内はうるさくないですか。お尻は痛くなりませんか。昔(かなり昔の話です)の自動車の中は結構音がうるさくて、座席は硬くて座り心地が最高とは言えませんでした。

日本では1年間に約527万台の新車が販売(2018年)されています。ハイブリッド自動車による燃費(ある距離を走るのに必要な燃料の量)の向上や電気自動車(EV)、外観などが話題になりますが、それらと同様に大きく注目されているのが車内快適性の向上です。先ほどと同じ質問をします。乗り心地はどうですか。

車内は静かで、座り心地も快適だと思います。それを支えているのが化学繊維メーカーの素材です。吸音材は進化し、多様な音域に対応できるようになりました。クッション材もそうです。自動車の乗り心地はタイヤなどに加えて、繊維素材によっても支えられています。

広がる吸音材やクッション材

分かりやすい例として自動車のことを書きましたが、吸音材やクッション材はさまざまな場面で使われており、おうちの壁や床、マットレス、電子機器などでも活躍しています。皆さんが着ている服や靴下などのように直接目に触れる機会は少ないかもしれませんが、さまざまなシーンで生活や社会を支えています。

高ノイズ抑制性能を実現
~旭化成「プレシゼ®」~

旭化成の「プレシゼ®」はスパンボンド繊維層の間に極細繊維層を複合した多層構造を持つポリエステル不織布です。スパンボンド不織布が有する特徴と、極細繊維が有する特徴を兼ね備えており、幅広い分野・用途のニーズにお応えしています。吸音材の用途では、「既存の吸音材では効果が足りない」「重量が重い」「周波数帯がマッチしない」などの課題があります。プレシゼ®とフェルトや発泡体といった既存の吸音材を貼合せることで、吸音性能向上や吸音材の薄型・軽量化、また吸音周波数のコントロールが可能で、ほとんどの吸音材と組み合わせが可能です。

  • 「プレシゼ®」断面(旭化成提供)
  • 「プレシゼ®」模式図(旭化成提供)

軽量・快適繊維クッションン材
~帝人フロンティア「V-Lap®」~

帝人フロンティアの軽量・快適繊維クッション材「V‐Lap®」不織布は、繊維の並びが縦方向であることから、高機能原綿(「エルク®」の原綿、PTT繊維「ソロテックス®」など)と組み合わせることによって、高反発性、かさ高、軽量、高通気性など繊維クッション材として優れた特徴を発揮します。曲げやすく、易成型性といった特性も有しています。表皮材との複合やプレス加工によって吸音性能をコントロールできます。繊維が厚み方向に配列されているため、V-Lap®不織布の荷重一変位曲線は、初期変位がウレタンフォームに近く、クッションを作成して着座した場合、既存不織布のクロスレイタイプと比較して耐圧分散に優れます。特にポリエステル繊維を使用することで反毛対比剛性が高くなり、軽量でリサイクル性にも優れます。

3次元スプリング構造体のクッション材
~東洋紡グループ「ブレスエアー®」「サウンドブロック®」など~

東洋紡が販売している「ブレスエアー®」は、ゴム弾性を持つ3次元スプリング構造体です。繊維が複雑に絡み合ってできており、白いインスタントラーメンのような見た目をしています。通気性やクッション性、透水性、耐久性、環境・安全、制菌性能付与などが特徴として挙げられます。ブレスエアー®を使用した敷き布団や枕は蒸れにくく、寝返りがうちやすいと言います。シート材の分野では高い耐久性が要求される鉄道シートや自動二輪シートにも採用されています。不織布の「サウンドブロック®」は超極細繊維配置を3次元的に制御し複合した、軽量かつ高性能な吸音フェルトです。1000~5000Hz(車の騒音など)付近の周波数で高い吸音効果を発揮し、優れた断熱性(自動車の社内の冷暖房効率を高めます)も持っています。粒状綿および粒状綿シートが「グレンゲラン®」です。高い保温性や形状回復力を有しています。

  • 「ブレスエアー®」(東洋紡提供)

高機能・環境対応型の吸音材
~東レ「シンセファイバー®」~

東レの「シンセファイバー®」は、表皮層、ブロック層がともにポリエステル100%で形成された高機能・環境対応型吸音材です。細い繊維と太い繊維を組み合わせることで、高い吸音性能と製品の自立性を両立しています。耐熱加工・撥水加工を施した表皮材を用い、ブロック層は熱接着繊維で接合されるなど、フェノールなどの樹脂を使用していないため、水濡れに強く形態安定性に優れます。耐熱加工を施した表皮材と自己消化性を持つブロック層で、燃え広がるのを抑えます。施工時の空中飛散を軽減し、チクチク感を改善しています。カット性にも優れているため、現場で裁断もできます。道路や鉄道、建築資材などさまざまな分野で優れた吸音性を発揮し、騒音、環境問題の解決に貢献しています。

超極細アクリル繊維の吸音材
~三菱ケミカル「XAITM」~

三菱ケミカルは、直径が約3マイクロメートルという超極細アクリル繊維(原綿)の「XAI TM(サイ)」を販売しています。これまで3マイクロメートルクラスのアクリルはフィルター用途などの展開が中心でしたが、XAI TMでは自動車の吸音材分野に進出しています。吸音材に使用する繊維は細ければ細いほど性能が向上すると言われており、アクリルの極細化技術が生かせると判断しました。自動車吸音材としての繊維素材は反毛品やポリエステルなどが用いられることが多いのですが、自動車の高性能化の中でロードノイズ(走行中に発生する音)やエンジンなどの低音域に対応できる素材として提案を進めています。

さまざまな素材に対応することができる
~ユニチカグループ(ユニチカテクノス)「キュービックアイ®」~

ユニチカグループのユニチカテクノスは「キュービックアイ®」を展開しています。マルチフィラメントや紡績糸の表裏組織と、適度な剛性を有するモノフィラメントなどの連結糸で構成された3次元立体編み物(ダブルラッセル)です。幅広い用途で使われ、寝具では、体に優しいクッション性を有し、通気性が良く蒸れ感をなくします。高い断熱性で暖かさが維持できます。ゴルフカート用シートでは、降雨時の衣服の濡れを最小限にとどめます。適度なシャリ味の風合いや清涼感を持つほか、保温効果も有しているため、オールシーズンで爽快な座り心地を発揮します。働く人のためにシューズインソールも開発しています。通気性、保温性、衝撃吸収性、刺激性などを持っているほか、滑り止め加工タイプや静電気帯電防止タイプもそろえています。

  • 「キュービックアイ®」(ユニチカテクノス提供)

(2019年6月掲載) 本文および写真・図(イラスト)の無断転載を禁じます。